明治天皇の后・美子皇后が着用したとされる現存最古で最高格式の宮中ロングドレス「大礼服」。大礼服とは、皇族や貴族が重要な行事にだけ着用した最高位の礼服です。2018年、昭憲皇太后(美子皇后)を祭神とする明治神宮と京都の中世日本研究所を中心としたプロジェクトチームが、そのドレスの修復に着手しました。
修復が始まると、ドレスの中から現れたのは何かが書かれた和紙でした。また、刺しゅうやデザインも詳しく調べてみると…。これまでヨーロッパ製とされてきたドレスでしたが、日本で作られた可能性も出てきたのです。
一体いつ、どこで、誰が作ったものなのか。
番組では、欧米の研究者たちも集結した修復プロジェクトを追跡。そこから見えてきたのは、江戸から明治へと大変革を遂げる時代のなか、西洋と対等であろうとする日本、そして未来を見据えた美子皇后の思いです。ドレスの謎とともに、英国王室のドレス収蔵庫や、ナポレオン王妃ジョセフィーヌが着用した国宝級の大礼服など、各国の宮中衣装の世界もお楽しみください。
この修復プロジェクトに密着した西村麻耶子ディレクター(以下、西村D)に、取材の裏話とともに番組の見どころを聞きました。
番組を深掘りする3つのポイント!
今回、美子皇后の大礼服の修復・復元のため、国際プロジェクトが動き出しました。集まったのは、中世日本研究所(日本)を中心とした、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスの研究者たちです。
修復プロジェクトのリーダーは、アメリカのハーバード大学で日本の伝統衣装を研究してきたモニカ・ベーテさん(中世日本研究所長)。ベーテさんの視点を中心に、ドレスの各パーツから見えてきた謎に迫っていきます。

ミステリー① いつ作られたのか
2018年、貴重なドレスの修復作業が開始されると、ドレスの中から出てきたのは何かの文字のようなものが書かれた和紙でした。文字を解読してみると、年代の特定につながる有力な手がかりが。また、デザインからも、そのスタイルが世界の社交界で流行した年代からヒントが割り出されていきます。果たしていつ作られたドレスなのでしょうか!?
番組では、大礼服のルーツを探るため、フランスのナポレオン1世の后ジョセフィーヌ・ド・ボワルネの国宝級の大礼服の撮影にも成功します。ジョセフィーヌが晩年を過ごした絢爛豪華なマルメゾン城の一室で、当時の立ち姿で展示していく様子もたっぷりお届けします。

西村Dの裏話
発見された和紙は、とてもしっかりとした厚みのあるものでした。なぜ文字の書かれた和紙が、豪華なスパンコールなど金属刺しゅうの施されたドレスの裏にあったのか。私たちもそのギャップに驚かされましたし、和紙の文字を解明していくことで、ある程度の年代を割り出せたのはとてもおもしろいと思いました。また、撮影したジョセフィーヌのドレスは、フランス人さえも目にすることが困難な大変貴重なドレスです。撮影は、ジョセフィーヌがナポレオンと過ごした豪華な寝室で行いました。在りし日のジョセフィーヌの思いが詰まったベッド前での豪華なワンカットをご堪能ください。
ミステリー② どこで作られたのか
謎を解くため、さらにプロジェクトチームが目を付けたのは、型崩れが起きていた「ボディス」と呼ばれる胴体部分。これ以上、型崩れが進まないよう立ち姿のままの保存を検討していました。

すると、その過程でボディスの骨組み部分の仕立てが甘いことを発見します。また、立体的に盛り上げられたバラの刺しゅうにも注目。その中にあった詰めものの正体が分からず、ロイヤルドレスの本場イギリスを訪ねることにしました。仕立てや刺しゅうから見えてきた、ドレス制作の舞台とは?

プロジェクトチームはイギリス王室の資料が集まるハンプトンコート宮殿を訪れます。歴代のイギリス王室ゆかりの品々を管理する収蔵庫にも足を踏み入れました。特別に、皇后の大礼服と同じ時代の、ビクトリア女王への謁見のために貴族が仕立てたドレスも調査します。当時の宮廷ドレスは世界的にもあまり残っておらず、貴重な映像に注目です。

西村Dの裏話
調査では、ハンプトンコート宮殿の敷地内にある、エリザベス女王の大礼服などイギリス王室の刺しゅうを引き受けてきた工房兼学校にも訪れました。当時、西洋に発注したであろう明治天皇のお召し物の中に、金モールを立体的に盛り上げた刺しゅうが使われたものがあります。その刺しゅうは、中にフェルトを詰めて盛り上げていました。今回の大礼服の刺しゅうには、フェルトとは違った国産の“あるもの”が入っていたことが判明します。そこから明治の作り手の思いも見えてきます。そこが私はとてもおもしろいと思いました。

ミステリー③ 誰が作ったのか
ドレスには、いかにも西洋のデザインらしい大輪のバラの織りがしつけられていました。

布地の上から縫い付ける刺しゅうとは違い、糸を組み合わせて布地そのものを作るのが織り。その織りから手がかりを求めて、世界中の王侯貴族のドレスを手がけた名産地、フランス・リヨンで250年以上も続く老舗工房や、京都の織物工房などを訪れます。
取材を進めると、皇后の大礼服の織りは、リヨンの学芸員も驚く高度な技術であることが判明します。その中で、当時、リヨンに留学していた日本人がいた可能性も分かっていきました。

果たして日本人が仕立てたのか、はたまた外国の技術者が仕立てたのか。その謎を探っていくと、日本の未来を見据えた職人たちの思いと美子皇后の姿が見えてきます。
西村Dの裏話
このシーンでベーテさんと同行した場所に、京都、西陣の織元で、京都で 唯一能衣装を専門に織りあげている織元があります。能衣装の織りとは、日本伝統のあらゆる織りの技術が集約されていると称されるほどのもの。見たこともない巨大なはた織り機で能衣装が織られていく様子には目を見張りました。その織元でさえ、大礼服の織りはスゴイ技術だと驚かれていました。取材を重ねると、実際に明治時代、リヨンに留学していた日本人を何名か発見しました。確かに、仕立てでは一部甘い部分もありましたが、もしこの織りが日本人の手で織られているのなら、本当にすごいことだと私自身も強く感じられました。
皇后の大礼服を、真矢ミキさんが目撃!
100年以上にわたって大礼服を大切に保管してきた、京都の大聖寺。今年2月、その大聖寺に修復を終えた大礼服が5年ぶりに帰ってきました。ドレスと対面したのは、プロジェクトのメンバーと、俳優の真矢ミキさんです。長き時を越えてよみがえった美子皇后の大礼服をじっくり撮影できましたので、ぜひ皆さんお楽しみに!

西村Dの裏話
真矢さんは明治神宮でご自身の結婚式を行っているので、番組冒頭の興味としては、自分が式を挙げた場所に祭られている昭憲皇太后(美子皇后)がどんな方だったのかがあったようです。真矢さんは今回、初めて美子皇后の人生や功績をたどることになり、大いに感動されていました。最後、大礼服を目の当たりにされたときには、「美しい」だけでなく「力強さ」を感じたとおっしゃっていたのが印象的でした。おそらく番組をご覧になっていただける皆さんと同じ目線だと思います。激動の時代の先頭に、大変な覚悟を持って立たれた一人の女性、美子皇后。かくいう私も、その人生に感動してしまった一人です。
取材を終えて、西村ディレクターが今思うこと
西村D
改めて、やはり明治の貴重な歴史遺産である皇后のドレスそのものの見事さに、この機会にぜひご注目いただきたいと思います。また、まだまだドレスは謎に包まれています。私たちは今、当たり前に洋服を着ているけれども、このドレスこそが「時代を変えた1着」だったかもしれないなんて想像を膨らませていただくと、さらにおもしろく見ていただけるのではないかと思います。
ドレスや皇室に興味のある方はもちろん、ミステリー好き、歴史好きの方にも楽しめる番組になっています。ドレスにはパーツごとに仕立ての人がいるように、この番組も各ジャンルのエキスパートが集って取材・制作を進めました。だからこそより良い番組が出来たのだと思っています。この番組にしかない、特別な世界観をぜひお楽しみください!
最後に、今回、プロジェクトメンバーの方々のご理解とご協力で貴重な皇后のドレスを撮影させていただくことができました。ベーテ先生、そしてご協力いただいたみなさんには本当に心からの感謝しかありません。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。


「ロイヤル・ミステリー 皇后のドレスの謎」
【放送予定】3月18日(土)[BSプレミアム]後9:00~10:29