医療現場で、言葉にならない子どもたちの声をくみ取るスペシャリスト“CLS”の仕事現場に密着!

プロフェッショナル 仕事の流儀「小さな願いが届くまで 〜チャイルド・ライフ・スペシャリスト 佐々木美和〜」

5月9日(火)[総合]午後7:57

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放送から1週間は見逃し配信をします(NHKプラス)

チャイルド・ライフ・スペシャリスト、通称CLS。
入院・闘病中の子どもの不安や恐怖を取り除き、安心して自分の病気と向き合えるように心理的側面から支援する専門職で、日本ではまだ新しい職種です。

5月9日放送の「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、CLSの日本におけるパイオニアの一人である佐々木美和さんに密着。佐々木さんと子どもたちとの日々を描き出します。

密着取材した宮田千帆里ディレクターに、企画意図や取材する中で感じたことを聞きました。

CLSってどんな仕事?

──チャイルド・ライフ・スペシャリスト(通称CLS)とは、どういう職業ですか?

医療環境にある子どもやその家族が入院や治療の中で抱く不安やストレスをやわらげ、主体的に自分の病気と向き合えるように心理的側面からサポートする専門職です。まだ幼く、言語化することが難しい子どもたちの「見えづらい感情」を話したり遊んだり一緒に過ごす中でくみ取り、医師や看護師に伝える役割から「子どもの代弁者」ともいわれています。CLSが関わることで、治療そのものをスムーズにするだけでなく、回復をも後押しするともいわれています。
CLSという職種が生まれたアメリカでは、小児科学会が「チャイルド・ライフは質の高い小児医療のために欠かせない要素である」と断言しているほどで多くの子ども病院や小児病棟で一般的な存在になっています。日本でも少しずつ広がりを見せていて、現在およそ50人のCLSが医療現場で働いています。

──佐々木美和さんを取材しようと思った理由は?

私は大学時代、社会福祉学科で学んでいたこともあり、「心をサポートする仕事」に関心がありました。今回CLSという職種を知り、大人に比べ言語化が難しい子どもたちの感情をどのようにしてくみ取っているのか、興味を抱きました。
さまざまな関係者の方々の取材をする中で、CLSの日本におけるパイオニアの一人としての名前が挙がったのが、16年前から名古屋大学医学部附属病院で勤務されている佐々木さんでした。そして初めてお会いしたときに、「この方を取材したい」と強く感じました。それは、佐々木さんが、入院中のお子さんだけでなく、かつて病棟で一緒に過ごした子どもたちとのエピソードを、会話レベルで驚くほど事細かく覚えていらっしゃったからです。「プロ」のすごみのようなものを第一印象で感じました。
またお会いした日、実際に病棟の中でお仕事の様子も見学させていただきましたが、医師と看護師とかなり密接に話していたり、入院中の子どもたちが次々と佐々木さんのもとに集まってきたりと、「病棟の中心」という印象も持ちました。「佐々木さんが病院に来てから対話が増えて治療を拒否する子どもが減り、円滑に治療を行えるようになった」という同僚の医師のお話も聞いて、佐々木さんのことをもっと深く知りたいと思いました。

「声を聞く」ということは、
とても難しい

──密着取材してみて、印象に残ったことは?

ある日、佐々木さんがこう話してくださいました。「私が聞きたいと思った瞬間、聞けなくなるような気がしている。私が聞きたい、と思って子どもたちが話した言葉は子どもたちの本当の声ではない」と。

佐々木さんは、採血やMRI検査など、医療処置が行われる際に付き添いをしたり、新しく進学・復学する子どものカンファレンスに参加したりと「目に見えるサポート」もたくさんされているのですが、一日の大半は、子どもたちに誘われるがままに、テレビゲームやカードゲームを一緒に楽しんでいるんです。でも、一見「遊んでいるだけ」に見えるこうした時間の中で、佐々木さんはたくさんのことを子どもから感じ取っているんです。子どもたちと交わす言葉や表情から「入院が長くなってストレスを感じているんだ」「手術に不安を感じているんだ」など、子どもたちの心の機微をつかんでいて、一日の最後に、その日を振り返るお話をお聞きすると、「そんなことを読み取っていたんだ」とびっくりする毎日の連続でした。
日常を一緒に過ごしているからこそ、子どもたちが本当につらいときに寄り添うことができる──佐々木さんのCLSとしてのすごみに触れることができた気がしました。

──視聴者の皆さんに伝えたいことは?

佐々木さんのCLSとしてのお仕事を見ていただき、「人の声に耳を傾けてみよう」と思えるきっかけになればうれしいです。「目に見える結果」が重視され「待つこと」がなかなか許されないと感じるいまの時代、言葉にできない思いを理解し、代弁してくれる人がいる──そのことがなんだかとてもうれしく、また希望のようなものも感じました。そのことを、みなさんと共有できたらうれしいです。

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