美術古陶磁復元師・繭山浩司さんと息子・悠さんの仕事に密着したドキュメンタリー「ゴッドハンド」。
去年3月に放送され反響を呼んだシリーズの第二弾が放送されます。
砕けたり変色したりした古い陶磁器を、卓越した技術で傷などなかったかのように復元してしまうことから“ゴッドハンド”の異名をとる繭山さん。番組では、長らくベールに包まれてきたその仕事ぶりと、切磋琢磨しながら難題に挑む親子の絆にフォーカスします。
今回、繭山さん親子の元に舞い込んだのは、一体どんな案件だったのでしょうか?
取材を担当した内田利元ディレクターに見どころを聞きました。
世界に6体だけの貴重な磁器!
「色絵馬(いろえうま)」を
本来の姿に
一人目の依頼主は、浩司さんの父・萬次さんの代からつきあいのある古美術業界の重鎮・熊沢正幸さん。熊沢さんは、ロンドンで出会った伊万里焼の名品「色絵馬」にほれ込み、40年間愛してきました。
しかし、過去に修復したとみられる部分が劣化してしまい、脚の形にも違和感を覚えると言います。

過去の修復で劣化したところを再修復してほしいと依頼された浩司さんと悠さんは、修復したところを分解してより詳しく調べてみることに。すると、懸念していた脚のほかにもいくつかの問題が浮かび上がってきました。さらに、世界に6体しかない絵馬の修復は、浩司さんにとっても未知の挑戦。難題が山積する中、繭山さん親子はいかにして色絵馬を本来の姿によみがえらせるのでしょうか?
大名家から流出した
鍋島焼の色絵皿を
直し過ぎずに修復してほしい
繭山さんの作業場にさらなる依頼が舞い込みます。依頼主は、代々、佐賀で鍋島焼を手がけている人間国宝・十四代今泉今右衛門さん。350年ほど前に鍋島藩が将軍家や大名への贈答品として作らせた色絵皿を修復してほしいと言うのです。大名家から流出したこの皿には、地元の名家で日々使い込まれていた痕跡が残されていました。今右衛門さんは、それもまた古陶器の歴史の一つであり、使用前の姿に復元してしまってよいものだろうかと語ります。

破損していたり過去の修復によって不自然に変色していたりするところは直しつつ、風合いは損なわずに修復してもらいたい──。直し過ぎないように直してほしいという今右衛門さんからのリクエストに、繭山さん親子はどのような方法で応えるのでしょうか?
内田D取材メモ
「陶磁器」の修復は「絵画」の修復などに比べると、まだまだ知られていない分野ではないかと思います。近年、「金継ぎ(※1)」という修復技法の知名度が上がり、修復というと「金継ぎ」を思い浮かべる方もいるかも知れません。
繭山さんの修復技法はこの「金継ぎ」ではなく、「共直し(※2)」と言うやり方で、割れた痕や傷を一切残さない修復方法です。修復後はいくら目を凝らしても無傷の作品にしか見えません。本当に時計の針を巻き戻したかのようです。
※1 金継ぎ……破損部分を漆によって接着して修復する技法。
※2 共直し……破損部分を周りの色や模様、質感に合わせて修復する方法。

初めて繭山さんの作業場に伺ったとき、修復された器の実物と以前の割れた状態の写真を見くらべたときの衝撃は今も忘れられません。まさに「神の手=ゴッドハンド」だと思いました。そして、とても魅力的だと思ったのは、そんな「凄技」を持ちながら、繭山さんの人柄はとても控えめで、「修復を見てほしいのではなく、作品を見てほしい」と話されていて、これはドキュメンタリー番組にしたい! と強く思いました。
そしてもう一つ、浩司さんと息子・悠さん親子の物語にも、ぜひご注目ください。お二人は、父と子でありながらとてもフラットですてきな関係なんです。自分のやり方で好きにやればいいというのが浩司さんのモットー。みずからのやり方や考え方を押しつけるのではなく、まずは自分で考えてみろっていう教育方針なんですよね。
それは、萬次さんも同じだったそうです。ですから、作業のしかたも三者三様。時には、浩司さんが悠さんにアドバイスを求めることもあります。一方、悠さんにとって、浩司さんの卓越した修復技術はなかなか越えることのできない高い壁でもある。親子が共に技術を高め合いながら、次々に舞い込む難題をどうクリアしていくのかという点は番組の大きな見どころです。

繭山さん親子が手がける陶磁器の多くは、過去に修復されたものなのですが、薬品に浸して分解してみないとどこをどう直してあるのか分かりません。それが明らかになっていくドキドキ感もまた楽しんでいただけると思いますので、繭山さん親子と一緒にミステリーを解き明かしていくような感覚でご覧いただけたら幸いです。
「ゴッドハンド 復元師と天翔る白馬」
【放送予定】
6月3日(土)[BSプレミアム]
午後9:00~10:00