映画の神様とよばれ、史上最多4度のアカデミー監督賞を受賞したジョン・フォード監督。1973年に79歳で亡くなり、今年は没後50年にあたります。今回ご紹介するのは傑作ばかりの監督作の中でも人気の高い西部劇です。
殺された弟の復讐のために保安官となったワイアット・アープが、医師でガンマンのドク・ホリデイと友人になり、宿敵クラントン一家と対決する物語。“OK牧場の決闘”として知られ何度も映画やドラマの題材となっていますが、これは1881年にアリゾナ州トゥームストーンで実際に起きた出来事。アープもホリデイも実在の人物で、トゥームストーンには今も西部開拓時代をモチーフにした施設があり、多くの観光客が訪れているということです。
1894年生まれのフォード監督はサイレント時代に映画界に入り、140本以上の監督作を発表しました。社会派ドラマ「怒りの葡萄」(1940)、ヒューマンドラマ「わが谷は緑なりき」(1941)、戦争映画「コレヒドール戦記」(1945)、歴史劇「メアリー・オブ・スコットランド」(1936)、コメディー「静かなる男」(1952)など、多彩なジャンルの作品を作っているのですが、代表作は何といっても西部劇。「駅馬車」(1939)「黄色いリボン」(1949)「捜索者」(1956)、そして本作と傑作ばかりです。
キャスト、映像、音楽、すべてが美しく完璧なフォード作品。映画ならではの語り、弱者に寄り添い悪いやつをやっつける男気あふれる登場人物。子どもから老人まで庶民の喜怒哀楽を理屈抜きの絶品のユーモアとあふれる詩情で語る演出は映画の最高到達点であり、ほかに及ぶものがありません。
すべての映画作家に影響を与えたといっても過言ではないフォード作品。スティーブン・スピルバーグやマーティン・スコセッシといったアメリカの監督はもちろん、日本の黒澤 明監督、「第七の封印」(1957)のスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督や「エンペドクレスの死」(1987)などの前衛的な作風で知られ、夫婦で映画を作り続けた映画作家、フランスのジャン・マリー・ストローブとダニエル・ユイレもフォードを敬愛し、大ファンだと語っています。
本作では、酒場やお店、ホテルや教会の建設など、西部開拓時代の素朴な生活を極上のモノクロ映像で丁寧に描きます。フォークダンスや民謡をこよなく愛するフォード監督、アープとクレメンタインが青空の下、町の人たちとダンスをする場面は、胸が熱くなります。
何度見ても心が躍り、深い感動に包まれる傑作。改めてご堪能ください。
プレミアムシネマ「荒野の決闘」
6月9日(金)[BSプレミアム]午後1:00〜2:38
そのほかの映画情報はこちら

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)
1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。