アップルの創業者で、革新的な製品を次々と生み出したスティーブ・ジョブズ。
実は、日本の木版画や陶器の熱心な愛好家で、ジョブズが生み出した製品には、ことごとく“日本らしさ”が色濃くにじんでいることが分かってきました。
日本の木版画の精巧でシンプルな美しさや、日本企業から学んだデザイン優先の製品作りが結実して生まれた「マッキントッシュ」、そして、日本の伝統的な陶器の、手になじむ自然な曲線を生かしたiMac…。かつてジョブズとともにアップルを率いた盟友や、少年時代からの親友などの証言を基に、日本に憧れ、日本に学び続けた、ジョブズの一生を追っていきます。
番組を担当した佐伯健太郎記者に、取材の裏話や番組の見どころを聞きました。
3つの見どころポイントを解説!
ジョブズと新版画
ITの傑作商品を次々と開発し、私たちの生活を変えたスティーブ・ジョブズ。彼が開発した製品は、日本企業の“デザインを優先した製品作り”に学んだほか、日本の美術品である「新版画」(明治30年前後から昭和時代に制作された木版画)からもインスピレーションを得ていました。番組では、ジョブズと日本との知られざる結び付きについて、十代の友人宅での「新版画」との出会いから解き起こし、彼が、そこから何を、どのように製品に取り入れていったのか、その道筋をたどっていきます。


佐伯記者の取材メモ
ジョブズと「新版画」について取材を進めると、彼が1983年から20年もの間、東京・銀座の画廊で約50点の作品を買い集めていたことが分かりました。彼は、「新版画」を鑑賞していただけでなく、その制作工程に強い興味を持ち、コンピューターの開発にも取り込んでいきました。寝室にも飾っていたという「新版画」とジョブズとの関係とは。元アップル・コンピュータのCEOで、ジョブズと親密な関係を築いたジョン・スカリーさんと友人のビル・フェルナンデスさんが、「新版画」とジョブズとの出会い、そして、コンピューターとの関係について語ります。

ジョブズが恋焦がれた曲線とは
ジョブズが、製品の開発でこだわったものの一つが「曲線」です。1998年に発売された iMacは、透明でカラフルなボディーと、丸みを帯びた形が親しみやすいとして、世界的な大ヒットになりました。実は、この iMac のデザイン、そして、アップルストアのインテリアにも、「新版画」以外の日本のアートが、ジョブズに大きな影響を与えていたことが分かってきました。
ジョブズの日本での足跡を調べていくと、焼き物のあるギャラリーなどによく立ち寄っていました。東京のギャラリーにジョブズを案内した美術商のロバート・イエリンさんは、ジョブズが「曲線」にこだわった理由を知る人物です。また、ジョブズが最後の日本への旅行で訪ねた陶芸家の髙橋楽斎さんは、ジョブズの陶器への深い理解を示すエピソードを語ります。


佐伯記者の取材メモ
楽斎さんの窯元を訪れたジョブズは、いきなり、「灰かぶりの器はないか」と尋ねました。「灰かぶり」とは、窯の中で燃えた薪の灰が器にかかり、それが溶けてガラスのような表面になる現象のことで、希少価値がある焼き物です。楽斎さんは、「器が好きな人だな」と感じました。私には、ジョブズが「灰かぶり」という言葉を知っていたことが驚きでした。窯の中を見たことがありますが、内部はエメラルドの神秘的な世界が広がっていました。焼き物の世界を詳しく知らなかったので、取材をしながら、ジョブズに日本の文化を案内されているような気持ちでした。

ジョブズの知られざる一面を知る証言者たち
番組には、ジョブズの友人のフェルナンデスさん、元アップル・コンピュータのCEOスカリーさんのほかにも、ジョブズと親しかった人たちが登場して証言します。
銀座の画廊でジョブズの接客を担当した松岡春夫さん、1980年代のアップル製品のデザイナーを務めたハルトムット・エスリンガーさん、作品の注文を10年間受けた陶芸家の釋永由紀夫さん、ジョブズとアップルストアの基本的なデザインを作ったアートディレクターの八木 保さんなど。番組では、一人一人の証言から、ジョブズと日本との知られざる結び付きを浮かび上がらせます。

佐伯記者の取材メモ
アメリカでの取材は、今年1~2月です。ジョン・スカリーさんは、“最高の語り部”でした。「どうして取材に応じたのか」という私の問いに、スカリーさんは、「ジョブズの人生の中で日本というものがどれだけ大切か、私はよく知っています」と答えました。そして、そのとおりでした。
コンピューターの開発を進めるジョブズは、「新版画」をどう捉えていたのか、焼き物からどんなヒントを得ていたのか、憧れだったソニーから何を学び取ったのか。スカリーさんは、かねてからの私の疑問に、ほぼすべて答えてくれました。1984年の「マッキントッシュ」の発表会でのジョブズのエピソードも明かし、最後には、ジョブズからサプライズで贈られたプレゼントも見せてくれました。スカリーさんへのインタビューだけでも、番組が成立すると思いました。インタビュー後、私は思わず、「ファンタスティック!」と言っていました。スカリーさんにアップルに来てもらいたかったジョブズは、自分を理解してもらおうと、何でも話したのではないかと感じます。ジョブズと日本との結び付きに絞って質問を重ねたこのインタビューは、極めて貴重な内容でした。
ナレーションはこの人!
番組のナレーションを担当するのは、加藤シゲアキさん(NEWS)!

なんと加藤さん、身の回りをアップル製品で固めているといいます。日本とのつながりをふんだんに持つジョブズの一生を、加藤さんの声でお届けします。
取材を終えて… 佐伯記者のまとめ
ここにたどりつくまでに8年かかりました。この番組は、その取材の集大成です。きっかけは、水戸放送局で記者をしていた2014年です。東京都内で開かれた新版画作家・川瀬巴水の展覧会がきっかけになり、ジョブズが巴水の作品をコレクションしていたということを知りました。やがて、画廊で接客した松岡春夫さんを取材しましたが、ジョブズと日本との結び付きを証言できる人を探し出すのは、時間がかかりました。しかし、私の取材テーマに興味を持ってくれる人と国内外で少しずつ連絡が取れ始め、少しずつですが、アメリカにも取材人脈を伸ばしていくことができました。ついに、スカリーさんまでたどりつきました。視聴者は、ジョブズが日本から何を学び取っていたのかについて知ることで、驚くのではないかと期待しています。
番組は、アメリカのクルーはもちろん、一緒に現地に行って構成を練ったディレクター、相談に応じて励ましてくれた同僚、特ダネ性を認めて指導してくれたたチーフ・プロデューサーなど、まわりの人々の協力を得て、アメリカや京都などでの取材が実現しました。とても感謝しています。
加藤シゲアキさんとナレーション収録で仕事をすることもできました。
私はまもなく退職ですが、「取材を続けてきてよかった」という思いでいます。
ぜひ、番組をご覧ください。

「日本に憧れ 日本に学ぶ~スティーブ・ジョブズ ものづくりの原点~」
【放送予定】
6月17日(土)[BS1]午後9:00~9:50