戦後の混乱期を生き抜いた戦争孤児たちの群像劇

特集ドラマ「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」

8月10日(木)[総合]午後10:00~11:13

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放送から1週間は見逃し配信をします(NHKプラス)

  

「戦争は終わったんじゃないのか!」
終戦直後の日本では、戦争で親を亡くした多くの子どもが街をさまよい、飢えと貧困に苦しんでいました。
社会に見捨てられ、自力で生き抜くしかなかった彼らにとって、戦後こそが本当の戦いだったのです。

「軍港の子~よこすかクリーニング1946~」は、そんな戦後の戦争孤児をテーマに描くドラマ。
軍港があった横須賀を舞台に、懸命に明日を生き延びようとする戦争孤児のたくましい姿を通して、幾重にも人々を苦しめる戦争の罪を問います。

物語の主人公・今日一きょういちを演じるのは、連続テレビ小説「らんまん」で少年時代の槙野万太郎を演じた小林優仁まさひとさん。
今日一と共に横須賀の街で生きる少年少女を、髙橋 らいさん、村山輝星きらりさん、原田琥之佑こうのすけさんら数々のドラマや映画で活躍する皆さんが演じます。

”軍港の子”を演じた子どもたちは、役を通して1946年をどのように見つめ、感じたのでしょうか?
4人のインタビューを通してドラマの見どころを紹介します。

小川今日一

小林優仁

横浜でテーラー(洋服の仕立て屋)を営む両親の元で育ったが、父は戦地から戻らず、母・良枝(田中麗奈)は横浜大空襲の犠牲に。クリーニング店を営む親戚に引き取られるも、なじめず家を飛び出す。

高木誠司

髙橋 來

娼館に出入りし、アメリカ兵の闇取り引きを手伝うことで日々の糧を得ている少年。フィリピンで母と姉を失い、横須賀へ。いつか父・光太郎(三浦誠己)が引き揚げてくると信じて待っている。

坂井凪子

村山輝星

責任感が強く幼い孤児たちの面倒をよく見るお母さん的存在。裁縫が得意で、モクバイ(吸い殻を拾いたばこを作り直して売ること)の名人。

岡田武弘

原田琥之佑

孤児たちのリーダー。盗みや靴磨きなどの稼ぎで孤児たちをまとめていたが、今日一と出会い、クリーニングの仕事を軌道に乗せようと奮闘する。

物語のあらすじ

終戦直後1946(昭和21)年の神奈川県横須賀。
空襲で母・良枝を失った今日一は、クリーニング店を営む親戚の元で働きながら暮らしていたが、一家と折り合いが悪く家出。武弘(原田琥之佑)や凪子(村山輝星)らと出会い、仲間になる。
自分たちの力だけで生き抜くしかない戦争孤児たちは、米兵の靴磨きやたばこ拾い、時に犯罪に手を染めていた。が、あるきっかけで「クリーニング」の仕事に出会う。

目の前で母を亡くした今日一は、母の手を離してしまった自分を責める。

子どもたちは、汗を流して働き、人に感謝される仕事で稼ぐ喜びを知り、生きる希望を取り戻し始め、「家を借りて暮らす」というささやかな夢を抱く。しかし、さらに過酷な現実に襲われて……。

今日一は、米兵相手の娼館で働くミサ(松岡茉優)や誠司の後押しで、クリーニングの仕事を請け負うことに。

“小林優仁✕髙橋 來✕村山輝星✕原田琥之佑 インタビュー

――戦争について、誰かに話を聞いたり自分で調べたりしたことはありますか?

小林:102歳のひいおばあちゃんが東京大空襲を経験しているので、そのときの話をお父さんから聞きました。空襲で家が焼けて、遺体だらけの街を必死に逃げ惑ったそうです。

村山:私のおじいちゃんは4歳のときの戦争体験を話してくれました。空襲で焼弾が降り注ぐ中、ひいおばあちゃんにおんぶされて逃げた話を聞いて恐ろしかったです。

髙橋:僕は親戚のおばあちゃんから話を聞きました。当時は今の小学生くらいの年齢で、茨城に住んでいたそうなんですが、空襲が来たときに備えて訓練をしたり学校の校庭に防空ごうを掘ったりした話を聞きました。いつもはすごく明るいおばあちゃんが、「戦争はいいものじゃないね……」としんみりと話す姿を見て、戦争ってこんなもにつらいものなんだと感じました。

原田:ドラマの出演が決まってから、戦争の時代を生きた人たちの体験談を集めたドキュメンタリーを見たり、映画や本で当時のことを調べたりしました。

小林:台本を読んでいて分からない言葉もたくさんあったので調べたことも。例えば「傷軍人」とか。

原田:「狩り込み*」なんていう言葉も今回初めて知りました。

*行政による強制的収容

髙橋:台本を読んでいるときは文字でしか想像できなかったけれど、戦争孤児の方や闇市を写した写真を見せてもらったり話を聞いたりしてから撮影に臨んだので、当時の様子をイメージしやすかったです。

村山:おじいちゃんやおばあちゃんたちが子どもだったころに体験したことを風化させないように、このドラマを通して私たちと同じ世代の人にもどんな時代だったのか知ってもらいたいと思いました。

――役を演じてみて感じたこと、心に残ったシーンなどについて聞かせてください。

小林:食べるものも環境も全く違うので、今の暮らしがどんなに便利でありがたいかを改めて感じました。カレーをみんなで食べるシーンは思い出深いです。

髙橋:当時の子どもたちの気持ちを知るために、あえておなかをすかせてから現場に行ったんだよね。

原田:だから、撮影のとき食べたカレーはおいしかった!

村山:撮影が始まる前にみんなで料理を作る機会があったんですけど、私はそれがすごく楽しくて。劇中で、孤児どうしがバチバチぶつかり合う場面があるのですが、撮影前にみんなで仲を深め合ったからこそ、本気でぶつかることができたんじゃないかなと思います。

小林:空襲の中を逃げ惑ってお母さんと離れ離れになってしまうシーンは心に刺さりました。本当に火が迫ってくるような恐怖の中で、お母さん役の田中麗奈さんが必死に僕のことを守ってくれているのを感じました。また、闇市で仲野太賀さん演じる井上に襲われるシーンが描かれるのですが、このシーンでは複雑な気持ちになってしまいました。戦争によって心を病んでしまった井上は、米兵からクリーニングの仕事をもらう僕たちに対して憎しみをぶつけるのですが、その気持ちもよく分かるんです。日本を守るために命懸けで戦ってきた井上にしてみたら、「何でお前たちは敵であるアメリカ兵のために洗濯をしているんだ!」って怒るのも無理ないんじゃないかなと思いました。

母・良枝の最期の言葉が今日一の生きる原動力に……。
戦争で身も心も深く傷ついた井上を、仲野太賀が鬼気迫る芝居で演じる。

髙橋:僕が演じる誠司は、フィリピンでお母さんとお姉さんを亡くし、お父さんが戦地から引き揚げてくるのを横須賀で待っているのですが、やりきれない気持ちになりました。ただ普通に幸せに生きていただけなのに、戦争で家族がバラバラになって……こんなのあんまりだなと。ずっと大切にしていた人が一瞬にして消え、一瞬にして世界が変わってしまう悲しさやつらさを実感しました。

村山:凪子は妹を亡くしたことで、他の子が家族の話をしていると敏感に反応してしまうのですが、戦争で亡くした家族のことっていつまでも頭から離れなくて、決して忘れることのできない深い傷になるんだなと演じながら実感しました。あと、私は自分が好きでショートカットにしていますが、凪子は違います。自分の身を守るため、男の子に見えるようにやむをえず髪を短くしているんです。それを考えたら、今まで髪形のことなんて深く考えたことがなかったけど、自分が好きな髪形をして暮らせることの重みに気付かされました。

原田:武弘は孤児を率いるリーダーなので、みんなよりも少し大人びたところを見せなきゃいけないし、実はみんなとは少し違った事情を抱えているので、今日一たちに対して一体どんな気持ちでいるんだろうと想像しながら演じました。僕は、今まで戦争のことなんて何も考えたことがなくて、今が楽しければそれでいいじゃんと思っていたんです。でも、この作品を通して、戦争がどんなに愚かでばかげているものなのか、戦後が子どもたちにとっての一番の戦いだったという番組のテーマの意味について考えるようになりました。世の中の負の部分がすべて集まったもの、それが戦争なんじゃないかと僕は思います。

――最後に、視聴者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

小林:美術スタッフの皆さんが作ってくださったセットが本当にすばらしいので、そんな中でお芝居できたのが楽しかったですし、ぜひ見ていただきたいです。戦争は遠い昔の出来事だと思っている人が多いかもしれませんが、実は僕たちが感じているよりも遠くない時代なんですよね。もしかしたら、このドラマで描かれていることが明日起きてしまうかもしれないと思いながら、大切に時間を過ごしてもらいたいです。そして、戦争が終わった後、見捨てられた孤児たちが力を合わせて生きていこうという思いが皆さんに伝わればいいなと思います。

髙橋:今日一が武弘たちに「仲間に入れてください」と言ったときの、みんなの悲しげな目が忘れられません。僕たちとほぼ変わらない年頃の子どもたちが、大切な人や物を失い、どれだけのつらい思い、悲しい体験をしてきたかということが痛いほど伝わってきました。大切な人と普通に安心して街を歩けることの尊さを考えながらドラマを見てもらえたらうれしいです。

村山:学校で戦争のことを習うとき、1945年に終戦を迎えたことばかりに注目しがちですが、その後、私たちと同じくらいの年齢の子たちがどうやって生きていたのか、このドラマを通して多くの皆さんに知ってもらいたいですし、私が演じることでその役割を果たしたいと思います。

原田:今も世界には飢餓で苦しんでいる子たちがいて社会問題になっていますが、戦後の食糧難だった時代を生きた子どもたちの姿を描いたこのドラマが、そういうことを改めて考えるきっかけにもなればいいなと思います。
飢えることなくごはんを食べられることのありがたさを、多くの方に考えながらごはんを食べてもらえたらいいなと願っています。


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