若者は戦争についてどう考えている?

NHKスペシャル「Z世代と“戦争”」

8月15日(火)[総合]午後7:30~8:42

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放送から1週間は見逃し配信をします(NHKプラス)

かつての太平洋戦争では、多くの若者が国家によって戦地に送り出され命を落としました。終戦から78年、Z世代と呼ばれる10代から20代の若者たちは「戦争」についてどのように考えているのでしょうか。

NHKはこの夏、3千人のZ世代を対象に独自のアンケートを行い、戦争や平和に関する考えを尋ねました。その結果を基に全国の若者や専門家がスタジオに集まり本音で議論します。戦争を直接経験していない日本人が大多数となる中、平和を守るために私たちは何が必要なのか。終戦の日の夜、Z世代の声をヒントに考えていきます。

制作を担当する鵜殿うどの りょうプロデューサー(以下、鵜殿P)の解説とともに、番組の見どころをお届けします。

NHKがZ世代に向けたアンケート

3千人のZ世代へのアンケートでは「戦争について知りたいことは何か」「メディアが発信する太平洋戦争の情報に関心はあるか」「日本が戦争に巻き込まれたらどうするか」などの質問を行いました。

その中で「10年以内に日本が戦争に巻きこまれる可能性はあると思うか」を尋ねたところ、「ある」「どちらかといえばある」と答えた人が半数を超えました。アンケートの自由記述には、ロシアによるウクライナ侵攻や、繰り返される北朝鮮のミサイル発射などのニュースを見て、不安を感じているという声が寄せられました。

鵜殿Pが解説!

NHKでは、子どもや若者の幸せを考える君の声が聴きたいプロジェクトを行っています。そこに寄せられた意見の中にも、ウクライナ侵攻によって「平穏な日常が突然失われる」現実を目の当たりにし、ショックを受けたという声が複数ありました。
かつての太平洋戦争では多くの若者が犠牲となりました。今のウクライナやロシアでも同じことが起きています。実際に戦争が起きると、真っ先に影響を受けるのが若者だともいえると思います。
戦争を考えるうえで若い世代のストレートな声に耳を傾けることが、まず必要なのではないかと考えたのが、この番組を制作するきっかけになりました。

Z世代と議論を交わす

Z世代のリアルな声を伝えたいと、ホームページやSNSで呼びかけたところ、全国から多くの方が応じてくれました。最終的にその中から12人の若者にスタジオに来ていただきました。
北は北海道から南は沖縄まで、高校生や大学生、会社員、ドキュメンタリー作家、教員、元自衛官などの多彩なメンバーです。同世代で“ギャル向け雑誌”のモデルとして活躍しているみりちゃむさん(21)も参加。さらに専門家も一緒に意見を交わします。VTRのナレーションは、アニメ「進撃の巨人」のエレン役などで人気の声優・梶 裕貴さんが担当します。

Z世代の皆さんとみりちゃむさん(右)(下)

テーマ①戦争が起きたらどうなるの?

番組では、ウクライナ出身のカテリーナディレクターもスタジオでの議論に参加します。取材したウクライナの友人の声を紹介しながら、「もし戦争の当事者になったらどうするのか」を、自分ごととして考えていきます。

ウクライナ出身のカテリーナディレクター(右)

テーマ②なぜ戦争は起きるの?

また、太平洋戦争について数多くの本を執筆してきた保阪ほさか正康まさやすさん(ノンフィクション作家)、紛争地での緊急人道支援や難民支援に取り組んできたおさ 有紀枝ゆきえさん(立教大学教授)、ロシアの軍事・安全保障に詳しい小泉こいずみ ゆうさん(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)の3名の専門家も登場。「なぜ戦争が起きるのか」「戦争が起きると社会はどうなるのか」などについて解説していただきます。

左から、保阪正康さん、長 有紀枝さん、小泉 悠さん

テーマ③戦争を起こさないためには?

これから先も平和を守り続けるには、過去の戦争の教訓を学び、語り継いでいくことが欠かせません。今や日本人の大多数は直接戦争を経験していない世代です。番組では戦争を「自分ごと」として伝えようと取り組んでいる、広島と沖縄のZ世代をご紹介します。

沖縄と広島の戦争を語り継ごうとしている若い人たち

戦争を語り継ぐために、最新のデジタル技術を使った方法も注目されています。その一つ、東京大学が研究開発しているプロジェクトをゲストのみりちゃむさんが体験取材しました。みりちゃむさんの全身を撮影して「アバター」を作り、原爆投下後の広島の写真に合成します。一体どんなものになるのか? それを見たみりちゃむさんの反応は?

みちゃりむさんがVR体験!

鵜殿Pが解説!

実はみりちゃむさんは、ひいおじいさんが元特攻隊員で、飛行機が撃ち落とされて海を泳いで生還した経験などを直接聞いていたそうです。それでも、戦争についてじっくり考える機会はほとんどなく、今回番組に出演していろいろな発見があった、と話していました。実際にみりちゃむさんのアバターが合成された広島の映像は、見たことのないものでインパクトがありました。
またスタジオでは、みりちゃむさんが戦争を“ヤンキー”に例えて話していたのですが、意外にも専門家がそれに同調して盛り上がる場面もありました。

制作者から皆さまへメッセージ

鵜殿Pのまとめ!

「NHKスペシャル」ではこれまで戦争や平和をテーマにした番組を約400本放送してきました。埋もれていた資料や証言を丹念に取材したドキュメンタリーやドラマなどが中心で、今回のように、「若者がスタジオに集まって本音をぶつけ合う」番組は“異色”かもしれません。

アンケート結果にあったように、若い世代に戦争への不安感が広まっている様子が見てとれます。ウクライナ侵攻という戦争を同時進行で“目撃”している今だからこそ、皆さんの気持ちや考えを共有し合える番組ができないかと、この企画を立ち上げました。

スタジオには16歳から26歳の12人が来てくれました。ウクライナなどで取材経験のある映像作家の方や、被爆地・長崎で平和を訴える活動をしている高校生、筋ジストロフィーで人工呼吸器をつけて生活しながら俳優に挑戦している女性など、さまざまなメンバーが集まりました。それぞれの視点から真剣に議論してくれました。

収録の最後にゲストのパックンが話していたのですが、「平和を守るために今できることは、今日のように友達と戦争について話をすること」だと。まさにその通りだと思いました。参加した皆さんも、ふだんは戦争についてじっくり話し合う機会がないそうで、収録後は「話し足りなかった」「またやってほしい」という声をたくさんいただきました。それを聞いて、こうした「場」を作ることが公共メディアとしての役割の一つなのかもしれないと感じました。

終戦の日の夜、Z世代だけでなくすべての世代に見ていただき、戦争を「自分ごと」として考えるきっかけにしてもらえたらうれしいです。

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