ジョン・フォード×ジョン・ウェイン 最高の西部劇

捜索者【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

9月1日(金)[BSプレミアム]午後1:00〜3:00

史上最多4回のアカデミー監督賞を受賞、詩情あふれる演出と映像美で今なお“映画の神様”として称賛されるジョン・フォード監督。1973年8月31日、79歳でこの世を去って今年で50年になります。今回ご紹介するのはフォード監督の最高傑作との評価も高い西部劇です。

南北戦争が終わり、弟の家族を訪ねたイーサン・エドワーズ。しかし留守中、弟一家がコマンチ族に襲われ、めいたちが連れ去られてしまいます。怒りに燃えるイーサンは姪たちを連れ戻すため果てしない旅に出ますが…。

イーサンを演じるジョン・ウェインは西部劇を代表する大スター。ジョン・フォード監督とは名コンビとして知られています。しかしイーサンは、それまでの西部劇にはなかった独善的で傲慢な人種差別主義者。ウェインはそんな複雑で屈折した人物を鬼気迫る演技で表現しています。フォード監督は、周囲の登場人物や観客が共感しにくいイーサンを主人公とすることで、愛と憎しみ、人間の倫理とは何かを問いかけます。フォード監督ならではの美しい色彩と完璧な構図、ダイナミックな移動撮影も忘れられません。

デビッド・リーン監督は「アラビアのロレンス」(1962)の演出にあたって本作を何度も見直したと語っています。そのほか、フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシ、黒澤 明、ジャン・リュック・ゴダール、セルジオ・レオーネ、革新的で前衛的な作品を夫婦で作り続けたジャン・マリー・ストローブとダニエル・ユイレ…、フォード監督の影響を受けた映画作家は数え切れません。スティーブン・スピルバーグ監督も最新作「フェイブルマンズ」(2022)で、本作へのオマージュをささげています。

エキストラなどを務めたのはモニュメント・バレー周辺で暮らすナバホの人たち。「駅馬車」(1939)はじめフォード作品にはモニュメント・バレーが何度も登場します。雄大な風景がフォード監督のお気に入りだったのはもちろんですが、この場所で撮影することでナバホの人たちの生活を助ける目的もあったということです。
もちろんジョン・ウェイン本人もイーサンとはまったく違います。ウェインは先住民の俳優ビューラ・アーチュレッタが息子の結婚式に出席できるよう撮影を一時休止したり、急に肺炎にかかったナバホの少女を自家用機で病院に送ったりしたということです。

映画でしか味わえない興奮と感動、気高い演出と演技。映画史上最高の西部劇。ぜひご覧ください。

プレミアムシネマ「捜索者」

9月1日(金)[BSプレミアム]午後1:00〜3:00


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

関連記事

その他の注目記事