東北北部には、地域の民間信仰から生まれた「民間仏」が数多く残されています。その容姿は、ニコニコ笑っていたり、アニメのキャラクターのようにユニークな形をしていたりと実に個性的!
そんな素朴でかわいい“ホトケさま”約130点を集めた巡回展「みちのく いとしい仏たち」の開催に合わせ、そのルーツを探ってみようというのがこの番組。
東北各地を訪ね、民間仏が生まれた背景、その独特な造形や優しい表情に秘められた人々の思いに光を当てながら、それぞれの土地の風土や人々の暮らしを2夜連続で紹介します。
制作を担当した深水真紀子ディレクター(以下、深水D)、山下つぼみディレクター(以下、山下D)に、取材した感想やそれぞれの見どころを聞きました。
どうして東北には「民間仏」が
たくさん祭られているの?
東北北部には、古くから自然にまつわる独自の民間信仰が根づいている地域が多く、その土地だけに祭られているホトケさま「民間仏」が地域の人々の心を照らしてきました。
それらの多くは、主に江戸時代にプロの仏師ではない地元の木地師(木工品を加工、製造する職人)や大工らによって彫られたもの。一般的な仏像の規格には当てはまらない、独特で味わい深い表情や形をしているものばかりです。

ちょっと粗削りだけど、親しみやすくて見ているだけで癒やされる。
そんないとしいホトケさまは、なぜ東北にたくさん祭られているのでしょうか?

深水D&山下D 解説
今回番組を制作するにあたって、巡回展の監修者である須藤弘敏 弘前大学名誉教授にもご協力いただき、いろいろなお話を伺いました。東北では、厳しい環境を生きてきた人々の幸せへの祈りが地域独自の信仰へとつながり、祈りの対象として多くの民間仏が祭られたのではないかと先生はおっしゃっていました。また、江戸時代に中央から仏師を呼んで本格的な仏像を建立するのは金銭的にも難しかったということも、地域の人の手でオリジナルのホトケさまが造られた理由の一つと考えられるかもしれません。
土地によって、表情や形状もさまざま。きっとほかにも、興味深い物語が隠されているに違いないということで、巡回展で展示されている仏像を中心に、気になるホトケさまをピックアップしてそのふるさとを取材しました。
▼前編のココに注目!
自然と共に生きる人々の心を照らす
ホトケさまを訪ねて岩手と青森へ

最初に登場するホトケさまは、岩手県八幡平市の兄川という集落で信仰されている「山神」像。読んで字のごとく、山間の地域を守る山の神様ですが、祭られているのは神社の片隅にある祠。神様だけど、ホトケさま!? 一体どういうことなのでしょうか。ちょっと不思議なニコニコ笑顔の山神様のヒミツを探りながら、林業と共に生きる兄川の人々とホトケさまのつながりを紹介します。

また、津軽海峡を望む港町・青森県今別町で出会ったのは、漁師たちの願いを一身に背負い、海の安全を守る多聞天(毘沙門天)。常に危険と隣り合わせの漁師たちにとって、心のよりどころとなっている頼もしいホトケさまですが、その見た目は少々キテレツ。さまざまな神や仏を宿した多聞天が生まれた背景を解き明かしながら、過酷な環境で生きる漁師たちの思いを見つめます。
深水D取材メモ
前編では、人々にとっての「祈り」とは何か?という問いを出発点に、それぞれの地域の人々がどんな思いを託して独自のホトケさまを祭ったのか、そこにはどんな暮らしがあるのかという部分に光を当てて取材しました。行く先々で、皆さんにとっての「祈り」とは何ですか?と質問したのですが、「神様=(イコール)自分なんです」と答えられた方がいて。みんな自分の中にそれぞれの神様がいて、そういうものと対話するのが祈るということではないかと話されていたのが印象深かったです。
これまで、仏像に祈りをささげるのは特別なこと、非日常的なことのように感じていたのですが、今回の取材を通して、祈りの対象が実は身近な暮らしに根づいているものなのかもしれないと思いました。見ているだけでほっこりするかわいいホトケさまや、見たことのないようなユニークなホトケさまが続々と登場しますので、仏像や仏教美術にあまり関心がない方にも楽しめる番組だと思います。
▼後編のココに注目!
地獄の裁判官なのに
見た目はめんこい!?
みちのくの十王像を巡る旅


古くから、生前罪を犯した者は亡くなってから閻魔大王によって地獄に落とされ、恐ろしい罰を受けると信じられてきました。罪の量刑を決める地獄の裁判官である十王は、当然怖くて威厳のある存在。
ところが、みちのくの十王像は、なぜかとってもめんこい(かわいい)んです!
本来、怖いはずの十王様が、東北ではどうしてコミカルな表情をした仏像になったのでしょうか?
その謎を解き明かすべく訪ねたのは、岩手県奥州市の江刺地区にある地蔵堂。この地でユニークな十王像が生まれた背景を探ってみると、どうやら東北ならではの風土にそのヒントが隠されているようで……。

一方、秋田県湯沢市では、地獄とこの世をつなぐと言われている「三途川」へ……。近くにある十王堂では、あの怖~い顔をした本場地獄の閻魔さまも登場します。

山下D取材メモ
後編のテーマは「地獄」です。「地獄」というと、閻魔さまがいてうそをついたら舌を抜かれたり火あぶりにされたりするという怖いイメージしかなかったのですが、実際に十王像を見たらすごく楽しかったんです。まず、その見た目に意外性があっておもしろかったです。特筆するような特徴があるわけでもなく、ただの木彫りのおじさんたちという感じのものや、木彫りすらもされていない形だけくりぬいてあるこけしのようなものなど、いたってシンプルなものが多かったのが印象的でした。今回紹介する十王像は、従来の十王像のイメージからはかなりかけ離れていると思うので、そうした驚きを楽しんでいただけたらと思います。

番組で紹介するホトケさまは、一本の木材から丸彫りする「一木造」と呼ばれる技法で作られているものが多いのですが、東北の人々の中には木に神様が宿っているという考え方が息づいているそうなんです。木から丸彫りするということは、すなわち神様からホトケさまを切り抜くようなことだと思うので、そうした東北の人々のマインドにも注目いただければと思います。
「みちのく いとしいホトケに出会う旅」
【放送予定】
9月7日(木)[BSプレミアム・BS4K]
午後7:00~7:29 前編「これでいいのだ」
9月8日(金)[BSプレミアム・BS4K]
午後7:00~7:29 後編「地獄へようこそ」