今年で生誕100年となる小説家・遠藤周作。戦後の日本文学を代表する数々の作品は世界各地でも読み継がれています。今回ご紹介するのは、そのなかでも名作の一つ、キリシタン弾圧の物語を映画化した作品です。
17世紀、日本で布教していたフェレイラ神父が捕らえられ棄教したと知った弟子のロドリゴとガルペは長崎に潜入、敬けんなキリスト教徒の村人たちと出会いますが、そこで見たのは想像を絶するキリシタン弾圧でした…。
製作・脚本も手がけたマーティン・スコセッシ監督は世界中の映画に精通し、数々の傑作を発表してきたアメリカ映画の巨匠です。レオナルド・ディカプリオ主演の最新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(2023)がまもなく劇場公開予定、80歳を過ぎた今も精力的に活動しています。
1942年、ニューヨーク生まれ。イタリア系でカトリックの家庭に育ち、少年時代は司祭を志していたというスコセッシ監督にとって信仰は大きなテーマ。イエス・キリストの受難の物語「最後の誘惑」(1988)、ダライ・ラマ14世の半生を映画化した「クンドゥン」(1997)に続き“信仰とは何か”を描いたのがこの作品です。原作に深い感銘を受けたスコセッシ監督は80年代後半から映画化を構想しますが、エンターテインメントではない内容から難航。しかし決して諦めることなく28年の歳月を経て実現させました。
スコセッシ監督の熱意を受け、キャストもすばらしい演技をみせています。ロドリゴを演じるアンドリュー・ガーフィールドは「アメイジング・スパイダーマン」(2012)で、主人公ピーターを、ガルペを演じるアダム・ドライバーは「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)でのカイロ・レンと、大作から作家性の高い作品まで幅広く活躍しています。2人はカトリックについて学び、体重を落とすなど綿密な役作りをして撮影に臨んだということです。そして名優リーアム・ニーソンが、深い信念をもちながらも棄教したフェレイラ神父を熱演しています。
日本からは浅野忠信、映画監督として国際的に高く評価される塚本晋也、加瀬 亮など、実力派俳優が出演。なかでも笑顔を浮かべながら冷酷に弾圧を行う井上筑後守を演じるイッセー尾形の演技は強烈な印象を残します。
スコセッシ監督は音楽の使い方も斬新で傑出していますが、本作はいわゆる音楽はほぼなく、風や波、虫の羽音といった自然の音が見事な臨場感をもたらしています。
スコセッシ監督こん身の傑作。じっくりご覧ください。
プレミアムシネマ「沈黙 ーサイレンスー」
9月29日(金)[BSプレミアム]午後9:15〜11:57
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【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)
1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。