「大奥」の音はどうやって作られた?シーズン1を振り返る!

今日から始まった「大奥」。
シーズン2もご視聴いただきありがとうございます。
音響デザイナーの佐々木敦生です。「大奥」ではシーズン1に続き、シーズン2も担当しています。

「音響デザイン」って聞きなれない言葉ですよね。
番組のクレジットでは「音響効果」と表記されたりもしますが、私たち音響デザイナーの役割は、番組の「音」を設計することです。ちょっと大げさに言うと「音の演出家」のような役割を担っています。

今回はそんな「大奥」の「音」が、どのようにして作られたのか…!? 懐かしのシーズン1も振り返りつつ、その舞台裏をお話ししたいと思います。

番組の「音」とは??

ドラマの「音」には、いったいどんな種類のものがあると思いますか??
ふだんは何気なく聴いているドラマの「音」を分解していくと…

と、いろいろな「音」の要素が組み合わされて、ひとつの「ドラマ」が出来ているんです。

この中で、ドラマの撮影現場で収録する音は実は「セリフ」がほとんど。
私たち音響デザイナーは、それ以外の音、つまり「環境音(SE)」「生音(Foley)」「イメージ音(ME)」「音楽(劇伴げきばん)」など、映像の収録現場にはない音を、後から追加・配置し、ドラマがより魅力的に見えるように設計しているんです。
※「セリフ」は音声スタッフが担当しています。

「音」のトータルデザイン

私はこれまでに、連続テレビ小説「あまちゃん」「とと姉ちゃん」「おちょやん」、大河ドラマ「平清盛」「西郷どん」、夜ドラ「あなたのブツが、ここに」などを担当してきましたが、実は、NHKはキャリア採用での入局で、前職では映画の音響効果の仕事をしていました。

映画では、制作過程の分業化が比較的進んでいて、
「環境音(SE)」「生音(Foley)」「イメージ音(ME)」「音楽(劇伴げきばん)」は、それぞれ別々のスペシャリストが担当することが一般的です。

そんななか、NHKの音響デザイナーは、一人で全体を担当することができ、番組の「音」をトータルデザインすることができる、とてもユニークなポジションです。そこに魅力とやりがいを感じ、これまで番組を作ってきました。

「大奥」でも、御鈴おすず廊下の鈴の音や、第10回 久通と吉宗の別れのシーンでのセミの声などの「環境音(SE)」、絢爛けんらん豪華な着物の衣擦きぬずれや、掻取かいどりをまとった足音などの「生音(Foley)」、そして感情やストーリー展開に寄り添う「音楽(劇伴げきばん)」など、さまざまな種類の音を使って、番組全体のデザインにチャレンジしてきました。

第10回より 久通と吉宗の別れ。セミの声を印象的に使いました。

「大奥」ならではのSE(効果音)と言えば、特に力を入れたものがあります。

みなさん、「ガヤ」ってご存じですか?
英語圏では「Walla(ワラ)」と呼ばれたりしますが、大勢の「がやがや」した声のことです。

大勢の人が行き交う街中や、お客さんであふれるお店のシーンなどでは、音響デザイナーがこの「ガヤ」を後からつけて、にぎわいを強調します。 (収録現場では、メインキャストのセリフ収録の妨げになるので、「ガヤ」の人には声を出さずに「口パク」(パントマイム)でのお芝居をお願いしています。)

当然、この「大奥」でも江戸市中のにぎわいを…と思ったのですが、そうでした。ここは男女逆転の世界でした。いや、逆転どころか、市中に男性はほとんどいません。

「女性だけのガヤ」が必要です!しかし、これまでの番組で作った効果音や、さまざまなロケーションで録音した音をアーカイブした「NHKサウンドライブラリー」(約15万音源収蔵)を探しても見つかりません。時代劇はどうしても男社会が描かれがちなので、なかったのです。
ないなら作ろう!ということで、今回は新たに「女性による時代劇ガヤ」を録音しました。

ふだんはオーディオドラマ(ラジオドラマ)のセリフを収録するスタジオに、大勢の女性に集まっていただきました。

男女逆転ガヤ収録@NHK601st

セリフを決めて収録するのではなく、シチュエーションをご説明し、男女逆転の世界に想像を膨らませてもらいながら、アドリブで演じていただきました。

力仕事の掛け声、客寄せの声、物売り、あいさつ、居酒屋での酔っぱらった声など…活気に満ちた女性たちの「ガヤ」にも、ぜひご注目ください!

「大奥」の音楽ができるまで

数ある「音」の中でも、「音楽」はドラマの中で特別な力を持つ、大きな要素です。
特に感情の起伏が大きい「大奥」では、登場人物が背負う「悲しみ」や「絶望」、あるいはそこからはい上がる「勇気」や「希望」を強調する上で、音楽は欠かせない存在です。
個人的にも、記憶に残るドラマには、記憶に残る音楽があるな…と思います。

今回、「大奥」の劇伴(ドラマの中でかかる音楽のことを劇伴げきばんと言います)はKOHTA YAMAMOTOさんにお願いをしました。

KOHTA YAMAMOTOさん

TVアニメ「進撃の巨人 The Final Season」や「キングダム 合従軍編」などでご活躍の作曲家です。

「大奥」の制作にあたって、プロデューサーや演出チームと話し合いを重ね、

〇徳川260年の歴史をスケール感豊かに「ダイナミック」に表現してみたい

〇時代劇という枠にとらわれず、「現代的なサウンド感」で表現してみたい

というコンセプトのもと、KOHTAさんに作曲を依頼しました。

「大奥」が描く江戸時代は、幕末を除くと大きないくさはありません。
それに加え、ドラマの舞台となるのは江戸城の室内。
映像は日本家屋の様式美を活かした、スタティックな質感になりそうな気がしました。

だからこそ、音楽としては、その背後に流れる歴史のスケール感や、将軍たちの感情のうねりを「ダイナミック」に表現した方が良いのではないかと考えました。

そして、「現代的なサウンド感」というコンセプトは、「大奥」を「今の社会と地続きの世界」として描きたかったからです。

アカデミックな分野では、近年、歴史を一つの視点からではなく、多角的な視点でとらえなおして再考察するという動きをよく目にします。歴史的な史料には描かれてこなかった背景や当時生きていた人たちの“リアル”な人物像には、とても興味が湧きますよね。

この「大奥」も、遠い歴史の世界として描くのではなく、「今と地続きの世界」として“リアル”に生きていた人々の息づかいや生々しさを感じられるように描くことで、ドラマをご視聴いただく皆さんにも、興味や共感を強く抱きながら楽しんでいただけるのではないか!?と考えました。

そのためには、今の私たちにとって身近な「現代のサウンド感」を持った劇伴が必要だと思ったのです。

KOHTAさんが創り出す劇伴の世界観は、「ダイナミック」なオーケストレーションと「今」のエレクトロサウンドが融合したスタイルが特徴で魅力的です。この「大奥」には、ぴったりだと思いました。

映像×音楽で化学反応を!

NHKのドラマでは、その番組に合わせた“オリジナル”の劇伴を、作曲家に依頼して作ってもらうことが多いです。その制作過程としては、

① まず、私たち音響デザイナーが、台本やプロットから、そのドラマにどんな劇伴が必要なのかを考え、リストアップしていきます。

必要な劇伴を洗い出した「音楽リスト」

② そこから、リストをもとに作曲家と演出チーム、音響デザインチームで打ち合わせやデモ音源のキャッチボールを重ね、完成形に近づけていきます。

③ そして、いよいよ音楽録音を迎えます。音楽録音は、劇伴に命を吹き込む瞬間です。映像と合わせることを想像しながら、いつも胸が高鳴ります。

音楽録音にて。録音内容の打合せ。KOHTAさん(右)と筆者(左)
音楽録音@NHK506st 今回は10型(34名)による大編成ストリングス!!
4丁のコントラバスによる重厚なサウンド

実はこうした劇伴制作は、映像収録より前(ときにはキャスティングの前)から始まっていることが多く、ドラマの中身については、どんなお芝居になるのか?どんな質感の映像になるのか?どんなテンポ感の編集になるのか?…など、まだ読めない部分も多くあり、完成形をイメージしながら進めていきます。
ふだんはドラマの舞台となる場所の特色やセットデザイン・衣装などを参考にすることが多いのですが、「大奥」には原作があるので、そこからイメージを膨らませていきました。

そういったことから、完成した劇伴を初めて映像に合わせる瞬間は、とても緊張します。
結果として、映像と劇伴を組み合わせたときに、「映像だけでは見えなかったもの」、また逆に「劇伴だけでも見えなかったもの」が見えたときには、とても手ごたえを感じます。
映像×音楽によっておこる化学反応や相乗効果で、新しいものが生まれる瞬間に立ち会えることは、ドラマの音響デザインの醍醐だいご味です。

メインテーマ曲のコンセプトは…

「大奥」の劇伴で、印象に残っている曲はありますか?
どの曲もとても素敵すてきですが、私が一番印象に残っているのはメインテーマ曲です。

メインテーマ曲コンセプト:
「国を守る」歴代将軍が紡いできたおもいが、時を超え、時代を貫いていくような壮大な曲

この曲については、KOHTAさんとコンセプトだけを共有し、「KOHTAさんが感じた大奥の世界を、1曲に詰め込んでください!」とお願いし、フリーハンドで作曲していただきました。
実は、最初にいただいたデモ音源で、皆さんの耳にも残っているかもしれませんが、あのサビのメロディが、既に完成していました!!
将軍たちが、計り知れない重圧の中で運命を受け止め、決然と歩んでいく姿。それとあのメロディとが重なり、御鈴廊下を渡っていく将軍たちの姿が目に浮かびました。

実は先日KOHTAさんと久々にお会いする機会があり、この曲をオファーした当時のことを改めて伺いました。

Qオファーを受けて、率直にどう感じましたか?
KOHTAさん:(前述の通り)ふだんはアニメの劇伴を手がけることが多いので、大奥=“時代劇”という独特の世界観の中で自分の音楽をどう表現していくか、まずはシンプルに「楽しみ!」と感じました。一方で、使う楽器や曲の雰囲気などに“和”や“重厚感”といった“縛り”を与えられることになるかもしれない…という漠然とした不安もほんの少しだけありました。

Q「フリーハンド」で依頼したメインテーマ曲は、どんなイメージで制作されましたか?
KOHTAさん:脚本を読み込み、まさに1話冒頭の“吉宗が御鈴廊下のふすまを開ける”画をイメージして、そこにこういう曲が流れたらかっこいいのではないか、と思いながら作りました。
放送を見て実際にそのシーンで曲がかかったのを聞いた瞬間は「これだ!」と感激しましたね。
たとえ自分が具体的なシーンをイメージして作ったとしても、劇伴の仕事は基本的に「曲ができあがったら、あとは託す」というもの。
思っていた通りに流れるとは限りません。
しかし「大奥」シーズン1の1話は、まさにイメージ通りに使ってもらっていて本当にありがたかったですし、頭に思い描いていた映像と自分の曲があわさっているのを見て達成感でいっぱいでした。
作曲家としていちばんうれしいと思う使い方をしてくれたと思っています。

シーズン2のミックス作業を終えて。一足先に音楽制作は完了。

KOHTAさん、ありがとうございます!(正直、ほっとしました)
KOHTAさんが思い描かれた「大奥」の世界を、映像にどう合わせていくのか…。
「音楽」と「映像」、それぞれの魅力が最大化するように考えていくのが私たちの役割です。
映像×音楽の化学変化を目指して、シーズン2も制作していきたいと思います!

どこにどんな曲をかけるのか…

ドラマの中で、「どこにどういった劇伴をかけるのか…」そのプランを考えるのも、音響デザイナーの大きな仕事の一つです。
先ほども少し触れましたが、映像の収録や編集に先立って、劇伴は想定される曲を事前に録音しておきます。
今回は、昨年の11月にシーズン1・2を見据えた劇伴を50曲あまり。そして、シーズン2の専用として、今年の8月に27曲を追加で録音しました。

映像の編集が終わると、たくさんある劇伴の中から選曲をしていきます。
「ドラマの魅力をかすも殺すも音響デザイナー次第」と自分に言い聞かせ、いつも身の引き締まる思いで取り組んでいます。

DAWと呼ばれるソフトを使用し、映像に音楽を編集しながら合わせていく

実は、「大奥」シーズン1では、毎回どこかにテーマ曲がかかっているのですが、お気づきでしたか?
シーズン1では、「逆境からどうはい上がるか」が毎回の見どころだと思っていました。
逆境の中での鬱屈うっくつとしたエネルギーが、未来への原動力に変わる瞬間に、あのサビのメロディをあてたい!と思い、毎回とても苦心しながら選曲をしました。
演出、プロデューサーチームも交えながらディスカッションし、最も「大奥」が魅力的に見える選曲やタイミングはどこか…試行錯誤を繰り返しながら進めました。

ちなみに、シーズン1でのテーマ曲使用シーンはこちらです。

第1回 冒頭/水野の命を救う吉宗
第2回 1000回の素振りをやり遂げる有功
第3回 有功に心を開く家光
第4回 女将軍家光の誕生
第5回 大奥総取締有功の誕生
第6回 綱吉、将軍としての戦い
第7回 右衛門佐と綱吉の共鳴
第8回 笙船の熱意に触れ、赤面疱瘡撲滅に向けて動きだす吉宗
第9回 異国の学問への扉を開く吉宗
第10回 歴代将軍の戦い、受け継がれたバトン

その中でも、私のお気に入りは、第4回の女将軍家光誕生のシーンです。
母を奪われ、自由を奪われ、名をも奪われた家光が、その苦境を原動力に替えて「将軍」として生きようとする…その「美しさ」。
そして一方で、赤面疱瘡という危機を前に、女性の力で国を守っていくという英断をする「力強さ」。
この2つが融合する第4回の終盤はとても好きなシーンの一つです。

第4回 三代将軍家光・万里小路有功編 より

また、今回放送した第11回では、冒頭の女将軍誕生の秘話、そして滅ばぬ道を探し求める吉宗のおもいを、シーズン2医療編のキーパーソンである田沼意次に託すシーンにテーマ曲をかけました。

歴代将軍のおもいが、若い世代につながっていく期待感と同時に、番組の冒頭でテーマ曲がかかることで、「大奥」が再び始まった!と感じていただけたのではないでしょうか?

こんな選曲も…

選曲の結果、思いもよらなかった使い方をすることになる曲もあります。

例えば「有功」の曲です。(各キャラクターに向けた曲・通称「キャラ曲」と言い、シーズン1では「家光」や「吉宗」、シーズン2では「平賀源内」や「慶喜」などにもキャラ曲が存在します)

なんと「有功」の曲は有功のシーンでは使用していません…。

と言いますのも、福士蒼汰さん演じる有功の「悟り」と「人間味」の境界が、事前に想像していたよりも、とても繊細で魅力的だったからです(第4回の玉栄の胸で泣き崩れるシーンが象徴的ですよね)。
この繊細さをかすためには、劇伴で方向づけをするよりも、あえて劇伴をつけないという選択をしました。

ただ、「有功」のキャラ曲は、「優しさ」と「切なさ」が同居するとても素敵すてきな曲だったので、どこかで使用したい!!と思い続けていました。

結果として、第10回の杉下が亡くなる前に、大奥の人々の優しさに包まれるというシーンで使用しました。期せずして、大奥総取締の有功の願いが結実した形になりました。

シーズン2もご期待ください!

シーズン2では、吉宗の遺志を継いだ次世代の若者たちの赤面疱瘡撲滅に向けた戦いや、女将軍をはじめとした幕府の人々が“江戸城無血開城”に奔走するエピソードなど、大政奉還に向けてドラマはますます盛り上がっていきます。

“耳”でも「大奥」を楽しんでいただけるように、シーズン2も盛り上げていきたいと思っています。応援、よろしくお願いします!!

佐々木 敦生
2009年入局。東京の音響デザイン部でドラマを中心に番組制作に関わる。
大阪放送局への異動を経て、2022年から再び東京の音響デザイン部に。
主な担当番組は、連続テレビ小説「あまちゃん」「とと姉ちゃん」「おちょやん」、大河ドラマ「平清盛」「西郷どん」、土曜ドラマ「55歳からのハローライフ」、終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」、夜ドラ「あなたのブツが、ここに」など。

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