新薬としての承認を前にした今だからこそ伝えられる治験の現場を伝えています。治験の最終段階では、本物の薬とプラセボ(偽薬)という薬の両方を投与して結果を見る比較試験が行われます。どれがプラセボかというのは医師にも患者にも知らされません。
番組では、必ずしも“夢”だけではないという厳しい現実を知ったうえで、この春から始まった治験に参加する患者に密着、その姿を伝えています。「もう治療法がなく目の前が真っ暗になったときに、『あさイチ』を見て希望をもらいました」という患者さん。今度は自分が希望を与える役に立ちたいとNスペのカメラが入ることを了承してくれました。
治験に参加する患者が病状の改善を望むのはもちろんですが、もうひとつ共通しているのが「後世のために」という思いです。いま、まさにがんという病と闘う患者が命をかけて新薬をつくり出していく。そこがもっとも見ていただきたいところです。(河原)
日本人の2人に1人が“がん”になるといわれています。そんななか、副作用がないといわれるがんワクチンの効果が実証され、実用化すればそんなにいいことはありません。しかし、いま現在それは承認されていない薬であり、使用することはできません。
現場では患者と向き合う医師が、がんワクチンを希望する人々を前に「今は治験の段階で誰にでも打てるわけではありません」とお断りされている状況です。目の前でがんに苦しんでいるのになぜ、すぐに出来ないのか。そこには、全ての新薬開発に共通する、日本の医療や制度の問題などが立ちはだかっています。まだまだ国のバックアップも十分とは言えません。これまで、がんワクチンを紹介してきながら、いま目の前でがんと闘っている人の命を助けることができない現実にもどかしさも感じてきました。
それでも未来の何百万という命を助けるために奮闘する研究者の熱い情熱や製薬会社の願い、同時に世界を舞台に繰り広げられる攻防も伝わればと思います。(溝渕)
ヨーロッパやアメリカを取材して、いま世界のがん治療が大きく変わろうとしていることを実感しました。人類は長年にわたって、がんに打ち勝とうと努力を重ねてきましたが、いまだ撲滅には到っていません。しかし、これまでの「外科手術」「放射線」「抗がん剤」とは異なる新たな治療法「免疫療法」にスポットが当たってきたのです。免疫療法そのものは古くからありますが、確証を得ることができませんでした。それが、ここ20年ほどの間に急速に研究が進んだのです。これからワクチンを含めたもう一つの治療法が続々と出て来る。そんな世界の動きを強く感じました。
たとえばヨーロッパやアメリカの病院には、イミュノテラピーという免疫療法の部署がありましたし、国やがん財団からも助成金が出て研究も飛躍的に進んでいます。これから時代が大きく変わるワクワク感、そして夢の治療薬が“夢”ではなくなりつつある。そんな世界の現状をお伝えすることで、希望を感じてもらえたら良いなと思います。(河原・溝渕)
この番組は、「がんワクチン」というタイトルですが、それだけにとどまるのではなく、承認前に放送することによって、日本の薬ができるまでのシステムや問題点。また海外と見比べて日本には何が足りないのか。この薬がほしいと思ったとき、私たちはどうすればいいのか。何ができるのか。そんなことを、多くの人たちに考えてもらえればと思っています。
番組を伝えるのは、井ノ原快彦さん、有働由美子アナウンサー、そして柳澤秀夫解説委員長という「あさイチ」トリオ。スタジオの雰囲気もほぼ再現しています。朝の放送と同じように、3人が自分たちの問題として感じたことを率直に話してくれました。疑問はストレートにぶつけ、かゆいところには手が届く。そんなトークを通して、興味深くお伝えしていきます。(河原・溝渕)