責務を背負うのではなく、ただ忘れない

『プロフェッショナル 仕事の流儀──サンドウィッチマンスペシャル』

能町みね子(文筆家)

「きのう何みてた?」は、さまざまな書き手が多様な視点から番組をレビューするコーナーです。文筆家の能町みね子さんが『プロフェッショナル 仕事の流儀』のなかから選んだのは、人気お笑い芸人の日常を追った「サンドウィッチマンスペシャル」の回。その見どころは?

お笑いは好きなので、サンドウィッチマン(伊達みきお、富澤たけし)のお二人も(追っかけるほどのファンではないにしろ)好きなんですが、ここのところ「好きな芸人ランキング」で3年連続1位になっているのはびっくりで、いまいち飲み込めないでいた。たけし・タモリ・さんまのビッグ3がいずれ入れ替わっていくのだとしても、テレビでいやというほど見るような盤石の知名度を誇る人がこういうランキングを駆け上っていくものだと思っていた。

サンドウィッチマンって、ネタは確かにおもしろいし、知名度もそれなりにあるけれど、ゴールデンの番組でバンバンMCとして場を回していくタイプではない。2人ともチンピラ風の容姿で「ザ・芸能界」的な華やかなイメージはなく(すみません)、ミーハーな人気があるわけでもなく、もともとはコアなお笑い好きの人たちが支持しているものと思っていた。最近よく言われる「人を傷つけない笑い」というわけでもないと思う。どうしてこんなにも不動の好感度を得たのか、私はそこに興味があった。

本当に「おもんなかった」?

ま、そう言いつつも、多少は分かっていた。震災のことは大きく影響しているんでしょう。2人は仙台出身であるだけではなく、東日本大震災当日に気仙沼で被災していて、それ以降、ひどく安直に言えば「震災について芸能人が語る際、サンドウィッチマンなら安心できる」というイメージがついている。こういうことは確かに好感度につながる。

とはいえ、この立ち位置はあまりに重いし、ものすごく難しい。いわゆる十字架のように担わされてしまうと芸人として動きづらいし、もちろん笑いにできる種類のものではない。いったいその点、どうバランスを取っているのか、そこがいちばん不思議だった。

逆に、出自やプロフィールにはさほど興味がなかった。というか、だいたい知っていた。サンドウィッチマン自身も言うようにお笑い不毛の地の東北・仙台出身で、小さな事務所で、M-1グランプリ優勝で花開くまでは苦労して2人でボロアパートで同居していて……なんてことは、バラエティーが好きでそれなりに見ていたら頭に入ってくる。だから、売れたあとのことが知りたかったのだ。

冒頭、小籔千豊は「おもんない回になりますよ」と言う。なぜかというと「それくらい裏表がない」から。確かに、そんな気がする。

実際、「裏」が見られたかどうかという視点で言えば、「おもんなかった」かもしれない。意外なことは、そんなになかった。2人が好感度を得た明確な理由が分かってハッとした、ということもなかった。

それから、「プロフェッショナル」のフォーマットがなにしろ有名すぎて、大まじめなナレーション、字幕、「ポーン…」という音とともに出てくる金言っぽいフレーズ……芸人さんが題材になっているだけに、全部がパロディーコントに見えてしまうというとんでもないノイズも発生した(誰が悪いわけでもない)。困った。

ともあれ、私が知りたかった震災との距離感については、かなり後半になって出てきた。しかし、そこにも意外性は特になかったのだ。言えば言うほどわざとらしい言葉になってしまうけれど、「自然体」、「ありのまま」、みたいな感じでしかなかった。構えない。カッコつけもしない。持っている毒気も含めて、震災の現場のコミュニティーに行っても、近所の飲み仲間のあんちゃんみたいな感じなのだ。

あえて「裏」を挙げれば……

県民性なんて言葉は偏見まみれでやっかいなものだけど、一応東北の血を引く者として言わせてもらうと(私の両親は北海道の出ですが、もっとさかのぼると福島・会津と宮城県南のようです)、東北が「お笑い不毛の地」であるのは納得なのである。メジャーなお笑いの文化はやはり関西のもので、それに比べれば東北人はやっぱり控えめで無口、笑いの方向性も内向的で自虐的(あくまでも私のイメージ)、テレビバラエティー的ではないように思う。

私は東北を旅するのが好きだけれど、だいたいどこに行っても「こんななんもないとこによく来たな」という感じで迎えられる。そこにスッと入っていくためには、ことさらに責務を背負うのではなく、ただ忘れない、ということだけを心がけて震災に関する仕事などを続けているサンドウィッチマンがぴったりとハマるんだろうな、と思った。

番組内で、あえて、垣間見えた「裏」を挙げるとすれば──
▷2人の私服に書いてあるものがやたらおもしろいこと。毎日密着してるんだから、たぶん狙ってるわけじゃない、はず。最初に出てくる伊達のバッグに「別格」。富澤のTシャツの字「うるせえ」。伊達のTシャツが「高安(力士)」。
▷一息つくためにタバコを吸うシーンがやたら出てくること。このことさえ飾り気ない感じがして、イメージが全く悪化しないのがすごい。
▷ネタ合わせのシーンがほんの少しだけ出てくること。実はものすごく努力していた!という感じでもない(してるとは思うけど)。

うーん。挙げてもやっぱりあんまり「裏」じゃないなあ。

★著者プロフィール

能町みね子(のうまち・みねこ)
北海道出身。文筆家。著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』(文化出版局)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『文字通り激震が走りました』(文春文庫)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎)、『結婚の奴』(平凡社)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)など。

★能町みね子さんの「最近、何みてた?」

・NHK「大相撲中継」

(毎日、3時間ほど)2人の親方のコロナ感染により念のため、アナウンサー・解説者までマスク着用。大変そう。異様。大相撲で手いっぱいでほかはあまり見ていません…。

・NHK「国会中継」

見る気はなく、テレビを付けたときにたまたま武田良太総務相の答弁をやっていた。「NTTと会食をしたかどうか」をずっと聞かれているのに「国民の疑念を招く会食はしていない」と完全なごまかし発言を延々20回くらい続けていて、衝撃を受けた。

・YouTube「しげ旅(稚内〜利尻)」

同居人がよく見てる旅YouTuberの人が珍しく北国に行っていたので、テンションが上がった。もういいかげん北海道に旅したい。

・ニッポン放送3/20「オードリーのオールナイトニッポン」

若林正恭さんが過去のネタを振り返り、今の基準でポリコレ・コンプライアンスを考えると半分くらいは放送できない、という話を「ポリコレのせいで面倒くさい」という観点ではなく、「今はそうなるのが当然」という感じで語っていたのが印象的だった。

★レビュー番組

プロフェッショナル仕事の流儀「サンドウィッチマンスペシャル」

【放送】3月24日(水)[総合]後7:30~8:42

好きな芸人ランキング3年連続1位。人気絶頂のサンドウィッチマンに半年密着。廊下でも楽屋でも、気づくと始まる『即興コント』にカメラは翻弄されっぱなし!? 最強のお笑いコンビが織りなす抱腹絶倒の72分スペシャル。ポケットに100円しかなかった超貧乏時代…コンビ解散の危機にふたりが交わした約束とは? 東日本大震災から10年、ふたりが届けようとしたもの。日本一愛されるふたりの『笑いの流儀』に徹底的に迫る。

▶︎ 番組ホームページ

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