年納め映画に、小津安二郎とヒッチコックはいかが?

12月のオススメ作品【渡辺祥子のシネマ温故知新】

12月ともなれば“ベスト10”の季節。今年見た映画で1番は何か?というような話題でにぎわうときだ。そんなとき、今月放送される映画に目を向ければ、こちらには世界が注目する映画、小津安二郎監督の「東京物語 デジタル・リマスター版」(1953)と、アルフレッド・ヒッチコック監督の「めまい」(1958)がラインナップに。この2作はBFI(英国映画協会)が10年に1度、「SIGHT and SOUND」誌で発表してきた“世界の映画監督が選ぶ名作”と、“世界の批評家が選ぶ名作”に選出されている。
世界の監督358人が選んだベスト・ワンは小津監督の「東京物語」。2位はスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(1968)。タイで2位がオーソン・ウェルズ監督の「市民ケーン」(1941)。批評家846人が選んだ1位はアルフレッド・ヒッチコック監督の「めまい」。2位は「市民ケーン」だった。(2012年度)

今月放送されるヒッチコック作品は、「鳥」(1963)、「めまい」、「サイコ」(1960)、「裏窓」(1954)の4作。小津安二郎作品は「東京物語 デジタル・リマスター版」、「お早よう デジタル修復版」(1959)、「秋刀魚の味 デジタル修復版」(1962)の3作を順次放送する。世界の映画監督や批評家が愛してやまない映画が楽しめる。

<アルフレッド・ヒッチコック作品>

プレミアムシネマ「鳥」
12月7日(木)[BS]午後1:00〜3:01

プレミアムシネマ「めまい」
12月14日(木)[BS]午後1:00〜3:10

プレミアムシネマ4K「サイコ」
12月27日(水)[BSP4K]午前9:30〜11:20

プレミアムシネマ4K「裏窓」
12月28日(木)[BSP4K]午前9:30〜11:24


<小津安二郎作品>

プレミアムシネマ「東京物語 デジタル・リマスター版」
12月12日(火)[BS]午後1:00〜3:19

プレミアムシネマ「お早よう デジタル修復版」
12月19日(火)[BS]午後1:00〜2:36

プレミアムシネマ「秋刀魚の味 デジタル修復版」
12月26日(火)[BS]午後1:00〜2:55

これらの映画の中でふだんあまり見る機会がないのが「めまい」だろう。これはフランスのミステリー作家ピエール・ボワロー、トマ・ナルスジャックのコンビ作家が書いた小説『死者の中から』が原作。“ボワロー=ナルスジャック”と1人のように呼ばれる2人は、初めは別々に書いていたが、やがて共同で仕事をするようになった。話が二転三転する凝った構成のおもしろさ、こまやかな描写が愛されて「悪魔のような女」(1955)、「めまい」のほかに、「脱獄十二時間」(1958)、「45回転の殺人」(1960)なども映画になっている。
ヒッチコックは、初め2人の書いた『悪魔のような女』の映画化を考えていたのだが、それを知らなかったポワロー=ナルスジャックがアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督に映画化権を渡してしまった。そういった経緯があり、ヒッチコックファンだった2人は改めて彼のために『死者の中から』を書いたといわれている。
原作では、アルジェリアから帰国した男がニュース映画の中に、昔自殺した女によく似た人物を見つけ、彼女を捜してマルセイユからニースへ行くのだが、ヒッチコックは舞台をサンフランシスコに変えている。いつもの彼らしく内容も、原作を大幅に脚色している。

「めまい」ではなによりも“高所恐怖症”が重要だが、ヒッチコック映画で本格的に高所恐怖症を題材にしているのは「めまい」だけのはず。とはいえ彼の作品では高所から落ちるかもしれない恐怖が繰り返し登場し手に汗握らせる。「海外特派員」(1940)、「レベッカ」(1940)、「断崖」(1941)、「知りすぎていた男」(1956)、「北北西に進路を取れ」(1959)のラスト! ヒッチコック映画は宙づりや落下の怖さでドラマが終わることが多い、という気がするがサテ?
「裏窓」のジェームズ・スチュワートも映画の始まりでは片足ギブスで車いすだが、最後は両足が…というシーンは“落下の恐怖”の結果だ。

2023年の終わりは“日本映画を代表する名監督の傑作”と“世界の映画批評家が愛してやまないスリリングな名作”を楽しみながら、新しい年をお迎えください。

そのほかの映画情報はこちら

<関連番組>

ETV特集「生誕120年・没後60年 小津安二郎は生きている」

12月2日(土)[Eテレ]午後11:00~翌午前0:00
再放送12月7日(木)[Eテレ]午前0:00~1:00 ※水曜深夜

映画監督・小津安二郎。死後に世界で評価が高まり代表作「東京物語」は映画史上No.1にも選ばれた。世界はなぜ小津に目覚めたのか? 内外の映画人等が魅力と謎を読み解く。

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渡辺祥子

【コラム執筆者】
渡辺祥子(わたなべ・さちこ)さん

共立女子大学文芸学部にて映画を中心とした芸術を専攻。卒業後は「映画ストーリー」編集部を経て、映画ライターに。現在フリーの映画評論家として、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等で活躍。映画関係者のインタビュー、取材なども多い。また映画にとどまらずブロードウェイの舞台やバレエなどにも造詣が深い。著書に「食欲的映画生活術」、「ハリウッド・スキャンダル」(共著)、「スクリーンの悪女」(監修)、「映画とたべもの」ほか。

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