推し歴25年の私が4万5060件の“推しアンケート”ととことん向き合った話

2020年10月、あさイチで1本の特集が放送された。それが…

人生が輝くヒケツ!“推しのいる生活”のススメ

「テレビ越しに見つめられるだけで、胸がときめく...」

「毎日配信される動画が唯一の癒やし」

「年に一度の舞台を励みに毎日を乗り切る!」

あなたの心を潤す“推し”の存在。
みなさんの“推し”との生活や熱い思いを伝えた番組である。

※あさイチでは“推し”=熱く情熱を注いで応援している「人物」または「キャラクター」を指すと定義しました

かくいう、私(ディレクター)も絶賛推し活中です

この推し企画の張本人が、私 あさイチディレクターをしているイノウエである。(入局11年目、独身です。)

なぜこの特集を企画したかというと、何を隠そう、私も絶賛推し活中のオタクだからである。聞かれてもいないが、ここで少し私の推し遍歴をお伝えする。こんな人間が、推し活の番組を作っていると思ってくれれば幸いだ。

小学生~中学生は、KinKi Kidsの堂本 剛さん推し
テレビ番組を見てはキャーキャーいい、お小遣いを貯めてはCDやポスターを集める日々を過ごす。

高校生のときは、お笑い芸人「品川庄司」さん推し
劇場やテレビの公開収録に足しげく通い、出待ちを経験したのもこのころだった。

大学生からは、ロックバンド推し
なぜかこのころから、「ほかの人と同じ人を応援したくない」というあまのじゃく精神が芽生え、深夜ラジオで流れる無名バンドの曲を聞いては、「これは、ダイヤの原石だ!」とほれ込み、レコ発遠征に明け暮れる日々。年間100本を目標にライブハウスに行っていた記憶がある。

そして、現在。某俳優に心を奪われ、お金と時間が許す限り、応援をし続けている。
(誤解なきように申し上げると、私のこれまでの推しは一度も番組に出ていません。悲しきかな。公私混同はせずに、やっている。あくまでアンケートベースで番組制作をしているとご理解いただきたい)

推し歴ざっと25年。一途な性格ではないのは、この遍歴を見れば一目瞭然であるが、どの人に対しても全力で愛を捧げてきた。365日、全力推し活中のイノウエです。

仕事がつらいときは週末の推しのイベントのことを考えながら、上司の叱責に耐え、大けがをして入院したときも推しの曲の歌詞を噛みしめて「絶対に元気になってライブにいってやる」と誓いを新たにして乗り切ってきた。

推しの存在は、私が書くのもおこがましいが、本当に偉大で、生活の一部で、神であり、支えであり、芥川賞を取った某書籍では「推しは背骨である」と表現もあったが、まさにその通りだと思う。
そんな「推し」がいるだけで沸いてくる熱量、この思いは私だけではない、推しのチカラを形にしたいと思ったのが、企画の動機だ。

コロナの感染拡大とか、悲しい事件・事故とか大変なことがたくさんあるが、推しがいれば少しはこの気持ちを吹き飛ばしてくれるはず、笑えるはず、いまこそ推しのチカラが必要なのだ。

今回は、4万5060件のアンケートと向き合った結果、“推し”の底知れぬパワーを感じた話をしたいと思う。

ある日突然アンケートがバズった

通常、あさイチでは、番組制作のための視聴者アンケートを行う。その一環で、私は今回も何の気なしに通常業務としてアンケートを投稿した。

生っ粋のネガティブ気質に加え、前の担当回では、30件くらいしか回答数が集まらなかったという実績もあり、アンケートする前から担当プロデューサーには「あんまり来ない気がします」とまで弱音を吐いていた。

ところが、これが尋常じゃなくバズったのである。

あさイチ インスタグラム アンケート募集告知

あさイチが行う通常のアンケート回答数は、数百件いけばいいところ。

それが、、たった1日で2万件を超え、2日後には3万件突破、1週間後には、4万を超え、なんと最終的には、4万5060件という快挙を成し遂げた。10年以上続いているあさイチ史上 過去最高の回答数を樹立した。

SNSやインターネット上では、

『全部回答しようとするとそこそこのボリュームがあるアンケートフォームから、推しを調査したいというNHKの番組の本気度が伝わってくる。』

『このアンケートを作った人は推し事経験者でしょうか?』

などと、お褒めのお言葉さえいただいた。ありがとうございます。
(アンケートの制作者も推し活中の私です)

ちなみに、4万件は積み上げるとこんな感じ↓

積み上げには、おとな4人で1時間30分以上かかる…/左から2番目が筆者イノウエ

この瞬間から私は「推しアンケートとガチで向き合うディレクター」となった。

推し愛が満ち満ちているアンケートをご紹介!

一番最初に回答いただいた記念すべき方は、「Snow Manの阿部亮平さん」推し・20代女性。
2番目が、「TEAM NACSの大泉 洋さん」推し・50代女性、
3番目が、「サッカー 清水エスパルスの箱推し」・40代の女性…というラインナップ。

これを見ただけでおわかりだろう。
アイドル、アーティスト、芸人、スポーツ選手、アニメ、声優、俳優、ゆるキャラに、政治家まで、幅広いジャンルの推したちが一同に会するアンケートとなったのだ。読みごたえは、ありまくる。

そして、こちらは「推しの魅力」を聞いた項目に書き込まれた回答。(アンケートより一部抜粋)

白いピアノで弾き語りしている健人くんがふいに私を見つめてきた一瞬でちました。本当に一瞬です。王子様とは彼のことを言います。健人くんのおかげで知らなかった美しい世界を知れ、人生バラ色。
(SexyZoneの中島健人さん推し・40代女性)

1人の人間として不器用でも一生懸命が出来るようになったすごい人です。不器用さを愛して、強さに憧れて、笑顔に泣かされてます。
(「アイドリッシュセブン」の二階堂大和さん推し・30代女性)

ちょっと見ただけですごい熱量を感じませんか…? 推しへのあふれんばかりの愛を伝える内容、好きという気持ちをストレートに語る表現がステキすぎる。

他にも、字数制限を設けていなかったため、ひとつの項目に1500文字以上書いてくださるツワモノも…これもはや小説ではないかと思わせる分量・ストーリーを書き上げてくれた。

住んでいる場所も、年齢も違う。でも推しを語るときはみな同じ、愛が満ち満ちている!

推し名書き(推しボード)誕生秘話

熱量あふれる4万件のアンケートを前に、本当にうれしかったのと同時に、「みなさんの熱い思いに少しでもお答えしたい!」という思いがふつふつとわいてきた。

残念ながら、放送には「尺」、つまり時間の制約がある。
あさイチの特集「60分」という限られた中では、おひとりおひとりのエピソードを読みあげることも難しい。チームで話し合った結果、自然と生まれたのが、投稿してくださった推しの名前を一覧にすることだった。

「少しだけですが、推しのお名前が映りますように…」というささやかな気持ちを込めて。

一部、拡大するとこんな感じ。

ジャンルを問わず約3000名の推しの名前を一覧にした、通称“推し名書き”

もちろん、「華丸さん/大吉さんの横に私の推しの名前がある!」などと、放送中に話題になってもらえればいいという思いも確かにあった。その思惑をはるかに超え、みなさんが楽しんでくれたというのがうれしかった。

放送後、SNSで「#後ろのボード」、「#大島さんのうしろ」(ゲストが森三中 大島さんだったため)がトレンド入りするとは想像していなかった。みなさんが、一時停止をしてまで推しの名前を探してくれるということになろうとは!

ありがとうございます!

いまではこのボードを「推し」にひっかけて「推し名書き」と呼ばせてもらっているが、これも放送後、みなさんがTwitterで命名してくれた。本当にうまいこと言ってくれるなぁと感動した!

※ちなみに、このツイートをいちはやく見つけたのが、番組の“推し担当アナウンサー” 松岡アナであった。さすがである。

TIGER&BUNNY バーナビー・ブルックスJr.推しの松岡アナ

実は超アナログで推し名書き制作を行った件

しかし、いざ制作となるとこれがまた大変だった。推しの名前を一気に抽出する方法がみつからなかったのだ。

アンケートは、エクセルの一覧になって管理されている。「そうだ、1件1件、確認すればいいんだ!」という単純なことを思いつき、放送1か月前にスタッフ5人を投入。

実にアナログなこと…1件1件推しの名前を確認して、新たに別ファイルに一覧にしていった経緯がある。

「テレビ局なのに、こんなアナログなことしていていいのかよ!」って突っ込みたくても、それしか方法がなく、夜な夜なスタッフで推しの名前の抽出に全力を注いだ。

「エクセルなら検索機能があるから、簡単でしょう」と思った方もいるだろう。しかし、現実は厳しかった。

たとえば、「嵐の二宮くん」、「嵐のニノ」とこのように回答されると、ひっかからないのである。ある程度は検索で抽出できたが、結果、すべてに目を通すという作業が必要だった。

そして、最終的には、この方々が本当に実在するのか、表記はあっているか、公式サイトを見て確認する作業を行う。

得意分野を生かし、二次元は松岡アナ、私は俳優・アーティスト、もう一人のディレクターは、宝塚を…と専門性を生かしチェックするという作業を乗り越え、制作ギリギリ放送1週間前に一覧が完成した。
(それでもお名前が重複していた方、お名前が間違っていた方、大変失礼しました。)

こんな、原始的なことをしながら毎回作成しているのが“推し名書き”である。ぜひ、次からはアンケート回答の際には、フルネームでお願いします!(笑)

読んでないでしょ、いや全部読んでいます

この記事を読んでいる方、アンケートを答えてくれた方の中には、このように思っているひともいるかもしれない。

「どうせ、回答数集めるだけ集めて、全部読んではないのではないか」

「結局有名な人しか放送されなかったから、私の推しのことなんて読んでないに違いない」

だが、ここで断言する。回答してくださったみなさん、本当にありがとうございます。回答数、4万5060件、すべて目を通しました。

↑筆者 イノウエ/スタッフでアンケートを毎日読みました

もう一度いいます、全部読ませていただきました。うそではありません。

『台湾のIT担当大臣オードリー・タン(唐鳳)さん』推しのあなた、『後ウマイヤ朝の第8代君主アブド・アッラフマーン3世』推しのあなた、アンケート全部読んでいますよ。

「読むの大変じゃなかった?」と聞かれれば、「死ぬほど大変だった」と即答しよう。

どんどん増えていくアンケート。毎日毎日アンケートとにらめっこ、肩こりは悪化するし、目もしょぼしょぼになってドライアイもひどくなった。字数制限しなかったことをひっそりと後悔した日もあった。

でも、それよりも1枚1枚のアンケートがとてもとてもおもしろかった。これもまた事実である。

当然ながら、同じアンケート回答などない。推しを表現する言葉のチョイスもすごい。同じ方を推している人でも、“好き”と思うポイントが違う。「へー、こういう着眼点があるんだ」と思いながら、読み進める。

あいにく知らない推しが出てきたら、インターネットで検索し、「ほう、なるほど、こういう方もいるんだ…」とビジュアルをみながらエピソードに目を通す。

「ん、たしかにかっこいい」、「次にこんな舞台に出るんだ」と、アンケートを通じてみなさまの布教にまんまとハマっていった。

推し活のバリエーションの多さにも驚かされた。
たとえば、「ふるさと納税する」、「献血に行く」、「推しの誕生日にラッピングカーを走らせる」、「楽屋のれんを贈る」など…創意工夫を凝らして推し活をしている人たちが山ほどここにはいる。まさに、推し活のアイデア宝庫である。

そして、何より推しが人生に大きく寄与していることがわかるエピソードが満載だった。

推しに出会ったことで浮気が原因で婚約破棄となった彼を許すことが出来ました。
(SexyZone箱推し・20代女性)

子供の応援が生きがいでそのロスをどう埋めようかと悩んでいましたが、そんな必要はなくなりました。彼らを応援する事で平静が保たれています。
(JO1 川尻 蓮さん推し・40代女性)

いろんなことを再度挑戦したいと思うようになりました。英語力をさらに磨くようになった。海外のファンとの交流ができるようになった。
(藤井 風さん推し・40代女性)

赤裸々なエピソードもたくさん寄せられた。前向きな気持ちも辛いとき支えてくれるのも推しの存在である。日常や人生にそっと黙って寄り添ってくれるのが“推し”。

いろんな意味をひっくるめてやっぱり、「推しが尊い」。

アンケートを通じて気になるワードやエピソードを書いてくれた方数十名ほどに、別途電話・オンライン・対面などで直接取材をさせていただいた。

追加の取材をお願いすると、「“推し”のためなら、取材を受けます!」「“推し”がでるかもしれないなら、取材受けます!」という前向きな回答がみなさんから届いた。
他テーマの取材とは比べ物にならないくらいすんなり取材をさせていただいた。ありがたい。これもまた、根底にあるのは“推しのため”。

こちらも、取材をさせていただく方の推しの情報を一とおりは調べてから取材に臨む。最初は、取材という形もありお互いに緊張していたが、推しの話になるとまぁ、盛り上がる盛り上がる。

「30分~1時間の予定でお話を…」なんてお願いしていたが、どの方とも時間を延長して、2時間ほど、いや3時間話した方もいた。
語り終わった後は、推しは違えど、「ありがとう、同志よ」と声をかけたくなるほどまで深い関係になれたような気がする。

取材をさせていただいた方の職業は、大学教授に、小学校教員、主婦、通訳にIT企業勤務の方、フリーランス、薬局勤務など、本当に多岐にわたる。当然年齢も10代~70代以上まで幅広かった。
ありきたりな言葉かもしれないが、みんな“推し”でつながれている。すごい世界である。

そして、取材をして思ったことは、推しは違えど、愛する気持ちは変わらない、熱量も変わらない、推しの幸せは自分の幸せ、推しが健康であることを願う…
すべて“わかりみ”案件ばかりなのである。

取材して、「あー、わかるこの感覚」ということの連続だった。
そして、印象的だったのが、すべての方が推しの話をするときに楽しそうに幸せそうに「生き生き」とお話しされていたということ。 声が弾み、少し早口になりながら、そして満面の笑みで。このキラキラの笑顔は忘れません。

中にははしゃぐことなく、かみしめるように「推しは人生ですね、もう」と推しの魅力を語ってくれた方もいた、それももちろん忘れない。

あなたの笑顔をわすれない

取材を通じて、忘れられないエピソードがある。
番組本編にも出演してくれた「韓国俳優ヒョンビン推しの早川さん」だ。

電話の取材もたっぷり行ったうえ、実際にご自宅にお邪魔させてもらった。ご自宅は、退職金を使って、すべてリフォーム。テーマは、「ヒョンビンと一緒に過ごす部屋」。推し歴15年で、DVDや写真集、それに直筆のサインまで本当にとても貴重なものばかりが、所狭しとディスプレイされていた。

そのなかで、私がふと「一番お気に入りのグッズはどれですか?」と聞いたところ、早川さんが手にしたのは、なんの変哲もない「空のコーヒーカップ」だった。

ヒョンビンから手渡されたの空のコーヒーカップを見つめる早川さん

詳しく聞くと、それがイベントの際にヒョンビン本人から手渡しされたものだということがわかったが、理由を聞くと、「これを手渡ししてくれたときの優しい顔が忘れられない」という。

「ガーン」と頭を殴られた気分でいっぱいだった。

自慢できそうなレアなグッズだってたくさんあるのに、それではなくコーヒーカップを選んだ早川さん。「そこに愛はあるのか」、みたいな視点が少し抜け落ちてしまっていたことに気づかされた。

どんなグッズを持っているではなく、推しとどんな思い出を持っているか、自分と推しの関係性がわかるものがそれが一番心に残るのではないか…

“推しへの思い”―それをきちんと伝える番組にしようと心に決めた。

推し活は続くよ、いつまでも

今回の記事を書くにあたって、またアンケートの一部を読み返してみた。
そして、改めて4万5060件の推しアンケートと向き合って思ったことは、“みんな違ってみんないい!”ということ。

推し活に正解はない。どんな推しでもどんな推し活でもいい。それで、みんなが幸せならいいではないかと思う。

ありがたいことに番組の反響を受け、「#教えて推しライフ」として、5月からあさイチでコーナー化が決定しました!

「推しライフ」=推し活だけを指すのではなく、推しとともに歩む人生そのものという意味を込め、スタッフ全員でタイトルを考えました。

コーナー第一弾は、5月27日(木)放送のあさイチで!
記念すべき第一回目のテーマは「俳優推し」。(国内で活躍する俳優限定)

▶︎ あさイチ「#教えて推しライフ」特集ページ

これ以降も、ジャンルを変え、いろんな推しを取材予定です。私自身も、まだ見ぬ推しワールドに出会えることを楽しみにしています。

これからもあなたの推しライフ、教えてください!


執筆者 イノウエ(制作局「あさイチ」ディレクター)

2011年入局。
事件事故などマジメな取材ばかりをしてきた局内人生だったが、2年前に「あさイチ」に異動。満を持して念願の推し企画を提案。と同時にオタクであることが局内でバレる。
常日頃から「母性の行き場がない」とぼやいて早数年。あふれんばかりの愛を推しに捧げることで、日々の生活にも彩りが!
きょうもアンケートを読み込み、電話取材に精を出す。

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