その昔。
深夜3時のセンター街の居酒屋で、ディレクターの先輩方に「メイクやスキンケア」など、美容をテーマに番組が作れないか?と、相談したことがあります。
メンバーは当時「ガッテン!」という科学情報番組を担当していたディレクターのO先輩とT先輩、そして私、岩本いわもと あまねの3人。
その場にいた全員が酔っ払っていましたから、きっと誰も返答は覚えていません。
でも確か「スキンケアは『全員が意識すること』ではないからな…」と、話をしたように思います。

それから5年。
ずいぶんと時代は変わりました。
女性向けのスキンケア製品は、あらゆるニーズに応えられるように進化を続け、いまや男性向けスキンケア製品も街にあふれています。

変わったのは時代だけではなく、担当番組も「ガッテン!」から「トリセツショー」へと変わりました。MCは石原さとみさん、番組を見てもらいたいのは30~40代の女性。
「スキンケア」を扱う番組の実現性が高くなりました。

その間私はというと、月刊の美容雑誌・化粧品を評価する雑誌を読み続け、化粧品・スキンケア製品について知見を蓄えていました。
いつしか原宿にある化粧品販売店に通い、ほとんど趣味と化していた「美容リサーチ」は、5年の歳月を経て、幸いにも私に微笑みかけてくれたのです。

そんなワケで、私が今回制作したのが「あしたが変わるトリセツショー・洗顔のトリセツ」という番組です。
ありがたいことに「肌質が超改善した!」「化粧のノリが激変した」「何で今までやってこなかったのか…」などなど、多くの反響をいただきました。

その番組制作の舞台裏と、私が美容系ディレクターを目指している、その理由を書いてみたいと思います。

身近な人に喜んでほしい!

「洗顔のトリセツ」を制作する前、私は「ためしてガッテン」・「ガッテン!」という、長い間皆さまに愛されてきた番組の制作を担当していました。
作ったのは「部屋干し(生乾き)臭」・「焼き肉」・「服の黄ばみ」・「靴下」・「アイロン」・「ハウスダスト(掃除機)」…などなどのテーマです。
なんの関連性もない“テーマ(のことを私たちディレクターはネタと呼びます)”の羅列に見えますが、大きな共通点があります。

それは、「岩本の周りの人が心から喜ぶネタか?」という視点で選んだことです。

生みの苦しみ、というのでしょうか。ディレクターが番組制作中に感じる七難八苦のうち、五難六苦くらいは“ネタ探し”というプロセスの中にあると、個人的には考えています。

「あしたが変わるトリセツショー」はその名の通り、世の中のあらゆるもののトリセツを作り、皆さんのあしたに、いい影響を与えることを目的にしている番組です。あらゆるものがネタになりえますが、
「本当に困っている人がいるのか?」
「現実的な方法で解決できるのか?」
「生活に取り入れたくなるか?」
などの外せないポイント(制約?)があります。
だから、その選定には結構な困難が伴うのです。

そんな番組を制作する中で唯一、私が大切にしているのが「自分の身近な人をいかに喜ばせるか」という指針です。
うーん、こうして書いてみるとなんとも陳腐ですが、実に合理的な理由があるのです。

まず一番の利点は、“ネタ”の引き出しが増えることです。
家族、友人、近所の優しいおばあちゃん、いつも通る工事現場の警備の方、母校の恩師や、ひょっとしたらペットの猫。
「身近な人」が多様であるほど、自分だけでは気がつかない「多様な、解決して欲しい何か」があるはず!(ありませんか?)それだけでネタの候補がずいぶんと増えるのです。
また、心から喜んで欲しい!と思うからこそ、細かいところまで制作に熱が入るのも良いところの一つでしょうか。

実際、掃除機(ハウスダスト)の回は、当時飼っていた猫の毛がカーペットに絡みついて取れず、
ようにブラッシングをされていた愛猫マーク(アメリカンショートヘア)をストレスから救いました。

今回制作・放送した「洗顔のトリセツ」も、身近な人が肌荒れに一喜一憂させられる姿をみて、出発した番組です。

しかし、ネタが決まったからといって、番組は簡単にはできません。
「番組を見て欲しい30~40代の女性に確実に響く情報や演出ってなんだろう?」という、実に根源的で、簡単には解決できない問題でした。

そこで私は、彼女たちが洗顔(スキンケア)について、どんな情報を求めているか、直接聞いてみることにしたのです。
主婦の方・育児中の方・バリバリ働く会社員・乾燥しやすい環境で働くCAさん、厚く化粧をするチアリーダー、美容部員やエステティシャンなどなど…。
その意見は実に多種多様。
スキンケアにかけられる時間も、求めている情報も異なりますから当然といえば当然です。

聞けば聞くほど、今回の番組で伝えるポイントが、ボンヤリとかすんでいってしまったのです。

そんなまずい取材を重ね、悩んだ私は「身近な人を喜ばせる」という指針に立ち返り、番組を制作することにしました。
実は今回の番組で狙い撃ちをしたのは、番組が誇るMC石原さとみさん。彼女が、もしも心から喜んでくれたら!!きっとたくさんの方が興味を持って情報を受け取ってくれるはずと考えたのです。

でも、きっとあらゆるスキンケアに詳しい石原さんに喜んでもらうためには(そうでなくともですが)なまはんかな情報は出せません。
さらに、根拠のある情報でも、実生活で活かせなければ伝える意味がありません。

そこで、次なる一手が必要になるのです。

はじまった実験の日々

その一手とは「実験」のこと。
イメージとしては、白衣を着て、フラスコに薬剤を入れて振ってみたりする、あの実験です。

そう、実は私たち科学番組のディレクターは、皆さんが想像する何倍も実験を重ねて番組を制作しています。
専門家や研究者たちが、論文や研究で明らかにした情報を、より分かりやすくかみ砕くために行うもので、「ためしてガッテン」や「ガッテン!」のころから続く、いわば「お家芸」なのです。

例えば「ガッテン!カミソリの回」では、「カミソリで剃ると肌が荒れる」という課題を解決するために、顔の半分のひげだけをそる実験を4か月間行いました。
正しい方法で毛を剃れば、肌が荒れないことをわが身をもって示したのです。

当時の写真を見返すと、半分だけひげがある自分の姿は非常に珍妙ですが…。
視聴者に心から納得して、喜んでもらうために。まずは自分が心から喜べるのか?
ディレクターたちはおのおのワクワクドキドキしながら、工夫をして検証して番組を作っています。

「洗顔のトリセツ」でも、数々の実験を行いました。
クルーは、数々の名作を世に送り出してきた敏腕ディレクターの中村さんと、超実直な若手・熊本くん。
さらに、正確さと安全性を確保するためにも、日本各地の研究者やメーカーの皆さんの助言を得ながら慎重に進めていきます。

まず力を入れたのは、泡のきめ細かさで汚れの落ち方が違うことを示す実験です。
とあるメーカーの研究で「きめ細かい泡は油を吸着する」ことが明らかになっていたので、その実際を面白く伝えたい!

人の皮脂汚れに見立てる材料は何が良いのか。
こめ油やラード、オリーブオイル、アーモンド油、油粘土などで試しました。
また、人の皮膚を模す材料は、皮膚と同じく細かな凹凸がある卵の殻を選びました。
油汚れが凹凸に引っかかって落ちにくくなるよう考えたアイデアです。お手製の「油脂汚れ」を卵の殻につけて、泡で洗うと確かに汚れの落ち方が違うことが分かりますよね?

そうして作ったのが、こちらのトリセツです。

また、顔の半分だけ洗顔をする実験も行いました。
人の肌は洗顔を怠ると、強い刺激を受けてニキビや炎症などの肌トラブルの原因になってしまいます。
そのことを伝えたくとも、一見しただけでは分かりません。

そこで、世界に1台しかない「肌のダメージ」を可視化する特殊な機材を求めて、仙台へ。
丸一日洗顔を怠った画面向かって左側の顔が、赤くなっていますよね?これは、強い刺激を受けていること示しています。

もちろんこちらの情報も、トリセツになりました。

実はこの実験、協力いただいた先生方も我々の依頼を受けて、初めて行ったもの。こんなふうに私たちの実験から、新しい知見が生まれることもあるのです。

そんな実験の日々を続けながら撮影を行い、編集。
エビデンスや番組としての情報性・面白さのチェックはプロデューサーやデスクの知恵と手を借りながら、日に日に形が出来上がっていきます。

そうこうしているうちに、勝負の日がやってくるのです。

果たして、反応は!?

そしてMC石原さんを招いてのスタジオ収録当日。
石原さんのリアクションは「衝撃!」「化粧のノリが全然違う」という想像を超えるものでした。
クルーでコツコツ積み上げた実験や情報は、見事石原さんに喜んでもらうことができました。

“身近な人”を喜ばせられた!
その姿を見た私たちディレクターは、うれしい気持ちを感じながら次への期待も高まっていました。
そう、このあとはいよいよ、視聴者の皆さんに見てもらう番です。

迎えたOA。
石原さんの喜びが視聴者に伝播でんぱしたのかのような、うれしいリアクションが待っていました。
番組を見た方から「肌が劇的に改善した」「化粧のノリが違う」などという声が届いたのです。
身近な人を喜ばせて、視聴者の皆さんにも喜んでもらえるなんて…!

ディレクター冥利みょうりに尽きる、幸せなことでした。

でもこんなにうれしい思いをすると、癖になるのが人の常。
欲深い私は今も“身近な人を喜ばせる美容のトリセツ”の取材を続けています。

果たして、二匹目のドジョウはいるのか。
「美容系ディレクター」と呼ばれるその日まで、ぜひ皆さんにもお付き合いいただければ幸せです。

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ディレクター 岩本 周

岩本です