大河ドラマ「光る君へ」の世界に360度”包まれる”体験をみなさんへ!
カメラマンがまーるい映像を作るワケ

雨が上がり、気がつけば夜空は晴れわたっていた。
月明かりの下で、いよいよ本番が始まった。

たくさんの貴族が静かに見守る中、色鮮やかな十二ひとえを身にまとった姫たちが舞う。
なんというみやびな世界!

撮影するスタッフの真剣なまなざし。
なんという緊張感!

NHK福井放送局、映像取材の本道純一です。
映像取材とは、わかりやすく言うと報道カメラマンです。

現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」の撮影現場は、いつも身を置いている報道現場とはまるで違う世界。
撮影現場で体験した雰囲気をそのままお伝えしたいと、緊張しながらも夢中で撮影していたのはVR映像です。

“VR”というと、専用ゴーグルを装着して見る姿を思い浮かべますよね。
こんな感じ👇

わたし、本道純一です

VR映像をゴーグルで見るときの特徴は、「没入感」。
まるでその場に立っているかのような疑似体験は、VR映像ならではの体験です。

でも私が作っているのは、VRを加工して作る“ドームシアター用”の映像。 でき上がった映像は、こんなドーム👇の中に入って見るんですよ。

ドーム内のスクリーンいっぱいに映像を映し出し、映像に包まれる体験ができるのがドームシアターの特徴なんです。
プラネタリウムをイメージするとわかりやすいかもしれませんね。
ドームの中に入るとこんな感じ👇です。

ドームシアターの最大の特徴は「共感」です。中に入るとドーム全体に映し出された迫力ある映像に包まれます。友人や家族とともにドームの中に入って一緒に楽しむことができるんです。

このドームシアターで、大河ドラマ「光る君へ」の世界に包まれる体験を味わっていただきたいと、コンテンツを作りました。

まるでそこは平安時代、紫式部の気分を味わう

大河ドラマ「光る君へ」を元に制作しているドームシアターのコンテンツは7つです。
“紫式部気分”が味わえるよう工夫を凝らしました。

そのうちドラマの撮影現場では2つを制作。
1つは紫式部(まひろ)と藤原道長が再会するシーン(第2回)。
そしてもうひとつは「五節の舞」のシーン(第4回)。最初にご紹介した十二ひとえで舞う場面です。

また、テーマ音楽「Amethyst」収録の様子も!NHK交響楽団による演奏を間近で観賞できます。

残る4つでは、紫式部にゆかりがある地域の四季を描きます。

【越前編(福井県)】
紫式部が生涯で唯一、京を離れて暮らしたという「越前」。今も変わらず色鮮やかに変化する四季の風景を描きます。

【京都編】
紫式部が暮らし源氏物語の舞台となった京都。
作中登場する舞台のモチーフとなった寺院や名所を季節ごとに巡ります。

【滋賀編】
源氏物語の着想を得たとされる石山寺境内の他、彼女が越前に向かう際、都への離れがたい思いを詠んだ歌にちなんだ場所を巡ります。

【奈良編】
源氏物語「玉鬘」の巻の重要な舞台である長谷寺。
高さ12mのご本尊や本堂舞台での遥拝ようはい、境内の四季など、1300年もの間受け継がれてきた悠久の風景を描きます。

これらは各局の映像取材カメラマンが撮影しました。
まるで紫式部ゆかりの地に行ったかのような体験、してみたくないですか?

ふるさとを見つめ直すきっかけは“九頭竜川”

冒頭でも書いたように、私の本来の仕事はニュースなどを届ける映像取材カメラマンです。
そんな私がなぜ大河ドラマ「光る君へ」と関わることになったのか。
それは、ふるさと・福井への思いからでした。

私がこれまで特に力を入れて取材してきたのは、ふるさとの自然です。
私は福井県出身で、福井局に勤務しています。福井局での勤務は13年ほど。その間撮り続けてきたのが県を代表する“九頭竜川”です。
私自身、九頭竜川近くの町で生まれ育ち、子どもの頃から九頭竜川で遊んでいました。
そんな身近でいつも近くにある“普通”の川が特別な川へと存在が変わったのは、カメラマンになって2年目、岐阜局に勤務していたときのこと。長良川の取材を通して知り合った人に
「九頭竜川ってどんな川なの?」と聞かれました。
「九頭竜川の全長は?」
「どんな生き物がいるの?」

何も答えることができなかったのです。
毎日のように見てきた九頭竜川ですが、何も知らないことに気づかされました。

存在が当たり前すぎて、いつの頃からか“知っているつもり”になっていたんです。

この出来事をきっかけに、少しずつ九頭竜川のことを調べ始めました。
他県で勤務する間も、「もっともっと知りたい」という思いは増すばかり。
帰省したときには九頭竜川の河川敷を歩き、九頭竜川の生物を調査する研究者に話を聞き、九頭竜川の知識を深めていきました。

そして約10年の時は過ぎ、ついに福井局への異動が決まりました。
今まで調べてきたことを自分の目で見てみたい。
そのすべてを撮影し、福井に住む人に伝えたい。

そんな思いを持ちながら九頭竜川に足を踏み入れたとき、そこには今まで見たこともない四季折々の九頭竜川の姿が広がっていました。

春、アユが群れとなって海から川に帰ってきた。
新緑に包まれた河畔林ではニホンノウサギが駆け回る。
日暮れ直前のわずかな時間、空と川が鮮やかな色に染まる初夏。
夏、冷たくて抜群に透明な流れが現れた。川底から湧き出した伏流水がつくる絶景。
生き物たちが命をつなぐ秋。夕日に輝く水の中を、アユは卵を産む場所へと泳いでいった。
70センチほどもある大きなサケが目の前で産卵した。
雪に覆われる冬の九頭竜川。厳しくもやさしい風景が広がる。

自分が住んでいる地域に当たり前に流れる九頭竜川の風景。
目の前に広がるいつもの自然ですが、実際に川について深く調べ、いざ中に入ってみるとその豊かさに驚かされてばかりでした。
そんなふるさとの自然を1人でも多くの人たち、特に自分のような福井に住む人に伝えたいと撮影し放送を続けてきました。

ドームシアターとの出会い

2018年に出会ったVRカメラによって、この思いはさらに発展しました。
VRカメラでの撮影を始めたころは、ゴーグルで見ることを前提に撮影をしていましたが、
同じ時期にドームシアターを体験したことが、さらに大きな転機となりました。

福井市自然史博物館分館セーレンプラネット

福井市自然史博物館分館に内径17メートルの大型ドームシアターがあり、ここで自分が撮影した映像を試しに投影させてもらえる機会があったんです。

独学でなんとかVR映像をドームシアター用の映像に加工し、投影してみました。あのときの感動は今でも忘れることはできません。

森の中を撮影した映像を投影すると、自分が森の中で寝そべっているような感覚に。
水中映像を投影すると、川底から水中の様子を見ているような感覚に。

初めて体験した“映像に包まれる”感覚。
ドームシアターで映像を多くの人に見てもらうことができたら、ふるさとの自然のすばらしさをもっと五感に訴えて伝えることができるかも知れない。

そして、福井で暮らす子どもたちに、ふるさとの自然を誇りのひとつとして捉えてもらう機会になるかもしれない。 そう強く感じたんです。

この体験後、取材の合間に福井県内各地でVR映像を撮影し続けました。
同時にドームシアター映像の作成方法も独学ながら少しずつ身につけ、磨きをかけていきました。

2021年、撮りためたVR映像で「福井の自然美~秋・冬~」という約19分のドームシアター専用コンテンツを制作し、福井市自然史博物館分館をお借りして映像公開イベントを開催。

春と夏にも星空などの撮影を続け、季節ごとに輝く福井県の自然の美しさを描くことができました。
そして、春夏秋冬の映像をまとめ、44分のコンテンツ「福井の自然美~四季~」として2022年3月に同場所で上映しました。

自分なりにふるさとへの思いを込めて作った映像です。
果たして伝えることができたかどうか、見終わったお客さんの顔を見るまで不安で緊張しましたが、 上映後にドームシアターから出てくるお客様の笑顔や、「福井に住んでいて良かったと思いました」という声を聞いたときは、本当にうれしかったです。

ドームシアターを“出前”できる!

2022年3月「福井の自然美~四季~」の上映を終え、迎えた4月。
さらに重要な出会いがありました。
段ボールでできた小型ドームシアターです。

これまでに上映してきた大型のドームシアターは座席数が100を超え、直径17mのドームスクリーンに映し出される大迫力の映像を楽しむことができます。
ただ、なるべく多くの人に楽しんでいただきたいと思っても、年間に上映できる回数や福井県内での開催場所は限られています。

一方、小型のドームシアターは、高さ2m、幅2.6mで、軽くて分解できるので持ち運びが可能です。
ドームに入ることができる人数は4人まで。
これだったら、自分たちが持って出かけていくことができる。

ドームシアターの出前です!
映像に包まれる体験を通して、もっと多くの人にふるさとのことを伝えることができるかもしれない。

そんな思いが頭の中を駆け巡りました。

すぐに資料を取り寄せ、実物の視察を行いました。
そして小型ドームシアター用のコンテンツ制作に取りかかりました。
4分程度のコンテンツを準備することができれば、1時間で50人ほどの人が体験できることになります。
コンテンツが長くなればなるほど、見ることができる人の数は減ってしまいます。
そのため濃い内容で短く描ききる必要がありました。
そこで、すでに制作済みの「福井の自然美~四季~」(44分)をベースに、テーマごとに再編集して4本のコンテンツが完成しました。

嶺北地方の森や川で寝転んでいるような感覚が味わえる「嶺北の風景」。
嶺南地方の海や滝など水辺でさわやかな気分が味わえる「嶺南の風景」。
福井県内各地の星空につつまれる「Under The Sky」。
福井県を代表する川、九頭竜川をダイナミックに泳ぐサケの姿を川底に潜って見ている感覚が楽しめる「九頭竜川~サケの産卵~」。

そのうちのひとつ、「Under The Sky」をご覧ください。

さっそく県内の大学や自治体のイベント会場、県の施設などと交渉を始め、小型ドームシアターを出前することができました。
2022年度は、合計1400人ほどの人に体験していただきました。

その後もコンテンツを作り続け、
いまでは20本ほどにまで増えています。
自然美だけではなく、福井県立恐竜博物館で展示されている恐竜の全身骨格標本や史跡などを紹介する映像も追加し、見る人の好みに合わせてコンテンツを選ぶことができるようになりました。

「光る君へ」で届けたい、ふるさと福井の魅力

そして2023年、福井県内は翌年から始まる大河ドラマ「光る君へ」への期待が高まっていました。
紫式部は現在の福井県越前市で1年あまりを過ごしたと言われています。

紫式部の時代にも存在していた日野山や日野川。
田植えが終わったばかりの田んぼのみずみずしさ。
日が沈んだ直後の青く染まった空が田んぼに映り込んだ美しい風景。星空、紅葉。

福井には、紫式部が見たかもしれない風景が目の前に広がっています。
その風景をドームシアターに投影したい。

そして映像を通して、紫式部が暮らしたという場所に住む福井の人に、ふるさとの良さを伝えたい。
その思い一つで、大河ドラマ「光る君へ」のドームシアター用コンテンツを作りました。

そして2月23日、いよいよお披露目の日を迎えました。

場所は、「光る君へ」の衣装や小道具などを見ることができる、越前市の「しきぶきぶんミュージアム」。この日は開館を祝うオープニングセレモニーが行われ、多くの人でにぎわっていました。

私が座っているすぐ後ろにあるのがドームシアター

ドームシアターにも来て欲しいなぁと受付に座って願っていると、瞬く間に受付には行列が!

今の自分が持っているものすべてを注ぎ込んで制作しましたが、見た人の心に届くのか、ドキドキ・・・。

「では、始めます。」
緊張しつつ再生すると。

「お~~!すごい!」ドームシアターの中から声が聞こえてきたんです。
『テーマ音楽「Amethyst」レコーディング』の上映では、演奏が終わった直後に拍手が沸き起こりました。

笑顔で出てきた方たちを見て、ようやくホッとできました。
感想を伺うと、
「臨場感がすごかったです。」
「大河ドラマを見たことがない私でもすごく興味がもてる内容でした!」
「面白かったです。時間があれば全種類見てみたいと思いました。」
「すてきな映像でした!!」

見に来てくれた方への感謝と感激で胸がいっぱいになりました。
同時に、大河ドラマ「光る君へ」の魅力、そして福井の魅力をドームシアターを通して伝えられたという、手応えを感じました。

大河ドラマ撮影の様子~散楽編~
大河ドラマ撮影の様子~五節の舞編~

上映は「しきぶきぶんミュージアム」オープンから3日間行い、ドームシアターを体験してくださった方は合計850人にのぼりました!

そして、さらなる”出前”がどんどん決まっています!

~上映日時や時間など詳しくはコチラ~

今後も、福井県内各地はもちろんのこと、「紫式部ゆかりの風景」が広がる滋賀県、京都府、奈良県にもドームシアターを出前したい。
そして、ふるさとの魅力を地元の人たちにもっともっと伝えていきたいと思います。

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