これまでの街歩き

タスマニア島ホバート/ オーストラリア

2010年5月16日(日) 初回放送

語り:田畑智子

撮影時期:2010年3月

世界地図

地図

場所

オーストラリア大陸のすぐ南に浮かぶタスマニア島。その州都、人口20万のホバートは、シドニーに次いで国内で2番目に古い街です。1804年に流刑植民地が置かれたのがそのはじまりで、南太平洋の捕鯨やアザラシ貿易の基地として、そしてそれを支える造船業の街として発展してきました。波止場には石造りの倉庫が並び、港を見下ろす丘には19世紀風の家がひしめき合っています。町なかにもナショナルトラストが認定する歴史的建造物が90以上も残り、オーストラリアの中で、もっとも歴史の面影を残す街といわれています。オーストラリア最南端の島で、伝統に触れる街歩きです。

Information

タスマニアの動物たち

オーストラリアには固有の動物が多いことはよく知られていますが、タスマニア島もまた、珍しい動物たちの宝庫です。オーストラリア本土は、人間が持ち込んだディンゴやキツネなどの肉食動物によって、固有種が絶滅の危機にさらされました。しかし、タスマニア島には、そういった動物が入らなかったため、固有の動物の多くが残されたのです。カモノハシ、ウォンバット、オオフクロネコ、ハリモグラなど、本土では数が減りつつある貴重な動物がまだ多く生息し、タスマニアデビルなどのこの島固有の種も見ることができます。
しかし、かつてタスマニア島全域に生息していたフクロオオカミ、いわゆるタスマニアタイガーは、残念なことに1936年に人間による乱獲で絶滅してしまいました。タスマニアタイガーは、タスマニア島の生態系の頂点でしたが、「家畜の羊を襲う」という話が広まり害獣として駆除されてしまったのです。動物の専門家は「このような人間の身勝手による種の消滅が二度と起きないように、私たちは、タスマニアタイガーの絶滅という事実を忘れてはならないのです」と語ってくれました。

木造ヨット修復

ホバートは昔から造船の街として知られていました。それは、タスマニア島内陸部に自生する「ヒューオンパイン」という固い松の材木が産出されることが大きな理由です。このヒューオンパインは、油を多く含むことから水に強く、船をはじめ、家の建築にも多用されています。この木を使った船は、頑丈で長持ちすることから、壊れても何度も修復され、乗り継がれています。
ホバートにはこのヒューオンパインで造られた船を修復するグループがあります。「木造船修復ギルド」です。メンバーは、もうリタイアして久しい、おじいさんたち。もともと家具職人だったり、会社員だったりと現役時代の仕事はまちまちですが、今は立派な船大工。130年以上も前に造られ、壊れていたヨットをコツコツと直しています。完成したらみんなでセイリングし、木造船コンテストにも出品するんだとか。タスマニアの熱き船大工魂に触れました。

ポートアーサー刑務所

ホバートの南、およそ100km。タスマン半島の先端に位置するポートアーサー刑務所は、1830年にイギリスから送られてきた囚人の懲罰施設として造られました。ここの囚人は、オーストラリア本土の刑務所では手に負えない重犯罪者ばかり。まさに島流し的な隔離施設でした。囚人はタスマニア開拓の労働力として駆り出され、ホバートの街造りなどの土木工事はもちろん、住宅の建築や造船にも従事。刑務所の建物も彼らによって造られたのです。
この刑務所は1877年に閉鎖しましたが、刑務所という施設が実は観光地として価値が高いのでは?と考えた地元住民が「監獄体験ツアー」を始めたところ、それが大人気に。刑務所という非日常の世界をのぞいてみたいという人間の心理に訴えたのです。この刑務所見学ツアーは、現在も続けられ、世界中から観光客が訪れています。
ホバートは、オーストラリアでシドニーに次いで2番目にできた街。街の歴史はこのポートアーサー刑務所の存在と密接に関係しているのです。

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