これまでの街歩き

ビリニュス/ リトアニア

2010年7月25日(日) 初回放送

語り:牧瀬里穂

撮影時期:2010年5月

街の「木彫り職人」

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夜明けの門から旧市街のメインストリートをしばらく行くと、どこかから木づちの音が。通りから見える中庭に、木彫りの人形やオブジェが置かれています。音はこの木彫り職人の工房から聞こえてきたものでした。お邪魔すると、木材、工具、型紙などが壁一面を埋め尽くしています。作業していた職人に話を聞きました。
リトアニアの伝統的な民族芸術をベースに制作・展示・販売をしているとのこと。1mを越える大きな彫刻から手のひらに収まる小さな木彫りまで、あらゆる動物、天使、十字架、民族楽器などを手がけているそうです。
中でもリトアニアにキリスト教が広まる以前からの伝統的、土着的な信仰の対象であるルピントイェーリスの像は印象的。家族を守ってくれると信じられているそうです。この像、街のあちこちで目にします。
民族楽器や像など、リトアニアの伝統を知ることができる場所です。アトリエの奥にある地下室には、古い農具や家庭で昔から使われている道具、家具などの収集品も展示されていました。

街の「機織り」

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路地を歩いていると、立派なよろい戸を開けているおばあちゃんに出会いました。聞けば、ここでリネンの機織りをしているんだとか。アトリエを見せていただきました。
この女性は40年間、織物の指導にあたってきた方で引退後もこうして毎日自分のアトリエで機織りを続けているのだそうです。アトリエに一歩入ると、カラフルな“帯”のような織物が並べられています。この“帯”は、誕生したての赤ちゃんの体に巻いたり、結婚記念日に親戚に配ったりするなど、お祝い事に使われる一方で、亡くなった際にはひつぎに掛けられるのだとか。生まれてから死ぬまで、文字通り人生をともにするものなのです。
織っているところを実際に見せてもらいました。使うのは昔ながらの木製の機織り機。その上には、穴の空いた20cmほどの小さな板が何枚もつなげられており、1回ガチャンと織るたびに板が切り替わり、模様のパターンを作っていくのだそうです。さまざまな色が織りなす帯の模様は、一枚一枚丁寧に織られた手作業ならでは。そんな織物を見学するために、世界各国から多くの人が訪れるというこのアトリエには、世界中の絵葉書や写真が飾られています。現在では、この帯をもとに、ランチョンマットやコースター、本のしおりなども作られるようになり、リトアニアの伝統を身近に感じることができました。

街の「誕生パーティー」

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旧市街の東、ビリニャ川沿いに位置する地域がウジュピス地区。15世紀ごろから労働者や職人が住み出したこの地区は16世紀に橋が架けられるまで、旧市街からは途絶されていました。独立前には芸術家などが多く住み、当局の圧力にも屈しない独自のコミュニティーをつくっていたそうです。かつては治安が悪かったのですが、近年は整備され、ギャラリーやカフェが立ち並び、冗談半分で住民は、ここを“ウジュピス共和国”と呼ぶようになりました。ジョークも徹底していて4月1日には、この地域に入るのにはパスポートが必要になるといいます。
そんな地域に建つ、横長の木造建築のアパート。100mを超えるこのベランダの一番端に集まっている人々を発見!話を聞くと、この家の奥さんの誕生日パーティーのため、娘や友人たちが集まったとのこと。お邪魔させてもらうと、家の中にはたくさんの絵が。ご主人はウジュピスの古くからの住人、画家でした。そして、テーブルには食事の準備が。シャンパンで乾杯です。主役である奥さんに話を聞くと、リトアニアの独立運動に加わって恐怖と戦いながら過ごした日々のこと、そして今、家族みんなで仲良く暮らすことができ、71歳の誕生日を迎えられたことの幸せを、涙ながらに語ってくれました。ビリニュスの波乱に満ちた歴史を生き抜いてきた人々の、人生にふれることができました。

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