これまでの街歩き

アビニョン/ フランス

2011年3月6日(日) 初回放送

語り:矢崎 滋

撮影時期:2010年11月

街の「社交場」

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旧市街の東側にある「染め物屋通り」にやってきました。19世紀には、染め物の工房が並んでいたというこの通り。わきを流れる水路では、今も工房の動力源となっている水車が回っています。
通り沿いの古本屋さんは、店を構えて30年。ご主人はパリの出版社で働いていましたが、ゆとりある暮らしと青空を求め、ここに移り住んだとうかがいました。当時のこの界わいは、スペインや北アフリカのマグレブ諸国からの移民が多く、文化のるつぼのようだったとのこと。今もそんな雰囲気が残っているそうです。
古本屋さんは、この通りで最も古いお店の1つ。店の前の通りにも本が並べられ、誰でも気軽に立ち寄ることができます。ちょうど来ていたのは、近所にお住まいのおしゃれな年配の女性客。食材を買い出しに出かけたついでに立ち寄り、店主と政治談議をしていたのだそうです。帰る時には、入り組んだ路地がいくつもあるので、どの道を通るかいつも迷うのだとか。
日常の中にさりげない楽しみを見つけながら、ゆったりと生きるアビニョンの人々の暮らしにふれました。

街の「宮殿」

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丘を囲む岩を削って作られた道を登り、旧「法王庁」にやってきました。ここは、1309年、ローマから法王庁が移され、70年間、キリスト教世界の中心となった場所です。
14世紀初頭、ローマ法王庁とフランス王の間では、勢力争いが絶えませんでした。そんなとき、法王に選ばれたのが、元ボルドーの大司教でフランス人のクレメンス5世。リヨンで即位し、アビニョンに法王庁の移転を宣言。以後1377年までアビニョンで7人の法王が立つことになりました。その間、アビニョンの人口は一挙に5倍の3万人まで膨れ上がり、法王庁宮殿をはじめ、教会や修道院などが次々に建てられました。街には洗練された雰囲気がもたらされ、イタリアからは詩人のペトラルカ、画家のシモーネ・マルティーニなどの文化人が次々と訪れました。アビニョンは、文化・芸術面でも一流の都市となったのです。
現在、法王庁内部は博物館になっていて見学できるほか、国際会議場や野外劇場としても使われています。ローマから法王庁が他に移されたのはアビニョンだけ。街の人たちは、そのことを今でも誇りに思っています。

街の「工房」

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メインストリートの1本裏の路地に、19世紀から続くステンドグラスの工房があります。元は教会に隣接する修道院でしたが、建物を改修し、工房にしたものだとか…。現在はドアや窓にはめるステンドグラスだけでなくバスルームのパーテ―ションや扉、鏡など、さまざまな用途での注文も多いそう。ほとんどがオーダーメイドです。
今のご主人は、もともとパリの人でしたが、5年前にこの工房を引き継ぎました。きっかけは、アビニョン出身の女性との出会い。彼女は当時、弁護士として働いており、パリとアビニョンを行き来する中でご主人と出会ったのです。もともと2人は連れ子が2人ずついる再婚者同士。この街で生まれた2人の子どもを合わせ、アビニョンで8人の大家族となりました。パリから引っ越した時の子どもたちの第一声は「空が青い!」だったとか…。
古くて美しい建造物が多く、しかも、家族との時間を大切にできるアビニョンでの仕事はパリより刺激的だとご主人はいいます。訪れた時はちょうど、奥さんと子どもたちが工房に遊びに来ていました。この街で生まれた新しい家族の笑顔が印象的でした。

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