これまでの街歩き

シエナ/ イタリア

2011年3月27日(日) 初回放送

語り:田畑智子

撮影時期:2010年11月

街の「広場」

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 旧市街の中心にある「カンポ広場」にやってきました。赤いレンガが独特の模様に敷き詰められ、扇型とも貝殻型ともいわれるデザイン。この広場は、街の人いわく“シエナ市民の居間”なのだとか。「扇の要」に向かって緩やかに傾斜しているためか、みんな同じ向きに座っておしゃべりしたり、本を読んだり、昼寝をしたり、思い思いにくつろいでいます。朝から晩まで、人が絶えることはありません。
 広場を囲む建物は13~14世紀のもの。修復をする際には、細かい規定を守ることで今も中世と同じ景観が保たれています。広場のわきに立つ、高さ102mの「マンジャの塔」には昇ることができ、シエナとトスカーナの大地を一望できます。
 広場で出会ったのは、卒業のお祝いをする学生たち、サッカー談議に興じる銀行を定年退職したおじさんたち、そして生まれた時からここに毎日通っているという90歳と84歳のご夫婦でした。広場は、シエナの人々の人生を中世から現在まで、ずっと見守っているのです。

街の「バルコニー」

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 カンポ広場から北にある、カテリーナ通り。古いアパートの4階に住む画家のお宅を訪ねました。案内してくれたのは、このアパートのお向かいで太鼓を作っていた息子さんです。
 居間のソファーで、お孫さんたちとくつろいでいた画家さん。シエナの美術学校で30年教えていたそうです。居間には、35年前に描いた奥さんの肖像画が飾ってありました。二人が出会ったとき、奥さんは美術学校の生徒だったのだとか。「彼女との結婚は最高の選択だった」という優しい旦那さんです。
 お宅のバルコニーは、丘に建ち並ぶ家々や大聖堂を一望できるすてきな場所。夕暮れ時には建物がシルエットになって、ひときわ美しいのだそうです。小さいころからここに住んでいたこの方はその風景を描きたくて、画家の道を選んだのだと教えてくださいました。
 美しいシエナの景色が生み出した、芸術一家です。

街の「ブロンズ工房」

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 カンポ広場から歩いて5分ほどのところに、洞穴のような雰囲気の不思議な古い工房がありました。中では、若い女性の職人さんがブロンズのプレートに芋虫の浮き彫りを作っていました。旧市街の「コントラーダ」と呼ばれる17の地区のうち、芋虫地区で行われる結婚式の、お祝いの品なのだそうです。伝統行事や古いしきたりに関わるさまざまな品などオーダーメイドで製作しているそうです。彼女は4代目。壁には初代の曽祖父の写真が飾ってありました。その息子さんにあたるおじいさんは、職人としてだけでなく、60年も街の音楽隊のメンバーとして活躍したのだそうです。そして、3代目の彼女の父親は、彼女が10代のときに亡くなり、鍛冶職人のお兄さんとともに工房を継いだのだそうです。「代々伝えられてきた歴史ある仕事だから、責任を感じている」という彼女。暮らしの中に伝統が生きているシエナでは、職人の仕事のニーズも消えることがなく、こうした若い職人さんがたくさん住んでいるのです。

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