これまでの街歩き

ドイツ 街道の街を歩く
リューネブルク/ ドイツ

2011年9月28日(水) 初回放送

語り:松田洋治

撮影時期:2011年7月

街の「階段切り妻」

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 リューネブルクの旧市街には、実にさまざまな形をした建物が軒を連ねています。このほとんどは、14~16世紀の塩生産の最盛期に建てられたもの。一つとして同じものはないというくらい、どれも個性的で凝った造りです。特に、裕福だった塩商人の屋敷は、豪華な装飾がなされ、レンガ一つ一つの色や形が違うなど、贅(ぜい)を尽くした造り。
 「アムザンデ」という中世期からある大通りには、塩商人の屋敷がずらっと並び圧巻です。その中に、屋根が階段状になったものがいくつもありました。どうしてそのような様式が好まれたのか、建物の前で休憩していた観光馬車の女性の御者の方に聞いたところ、階段状の屋根は、「階段切り妻」といって、あの階段で天国に昇って行けるとされているんだとか。それに、金持ちは財力を誇示するために、他の家より出来るだけ飾り立て、高く大きく見せようとしたんだそうです。旧市街には、この階段切り妻の建物が数多く残っています。中世のリューネブルクには、金持ちの塩商人がどれだけ住んでいたのでしょうか。

街の「改築夫婦」

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 旧市街の西側一帯は、地盤沈下地域に指定されています。この地盤沈下は、製塩のために地下の塩水をくみ上げ過ぎたことが原因で中世のころから始まり、製塩が行われなくなった現在も年間1mmほどのペースで沈み続けているといいます。周囲の地域からは急な坂を下りて入りますが、その高低差は2mほどもあり、いかに大量に塩水をくみ上げたのかがうかがわれます。
 そんな地盤沈下地域で、1726年に建てられたという古い屋敷を改築して暮らす夫婦に出会いました。建物の正面の壁が地盤沈下によって沈み続けていて部屋の内部に大きなひび割れが出来ています。また、玄関の石段も沈下の影響で動いてしまったとのこと。しかし、この夫婦は、改築や修復を趣味のように楽しみながら、決して慌てることなくこの古い家と付き合っています。「今まで400年もったんだから次の400年も大丈夫」という夫婦のあっけらかんとした言葉に、歴史ある街に住む“余裕”のようなものが感じられました。

街の「絵画教室」

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 夕方、港にある古いクレーンの横で、絵を描いているグループに出会いました。女流画家としてリューネブルクの旧市街にアトリエを構える先生と、ちょっと年配の生徒さんたち3人。先生が言うには、このメンバーはヨーロッパ中の風光明美な街で絵を描きながら一緒に旅をする仲良しグループなんだそうです。「絵を描くときは楽しく笑いながら」がモットーらしく、スパークリングワインを用意しながら絵筆を走らせていました。そんな楽しい絵画教室だから、先生の描く絵も明るく大胆なタッチです。
 生徒の一人である女性は、「このリューネブルクはまさに絵のモチーフだらけで、この街で絵を描くこと自体が、まさに絵のようだわ」というほれ込みよう。そして先生はこう言います。「この街の建物や風景に一瞬で恋に落ちながらも、落ち着いて風景に耳を傾けることで、街は400~500年前のこと、生や死や希望などいろいろなことを私たちに語ってくれる」。
 リューネブルクという街が持つ奥深い魅力を感じるために、時には歩みを緩めてじっくりと立ち止まってみるのも一興かもしれません。

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