これまでの街歩き

魅惑の古都を行くⅢ
ドレスデン/ ドイツ

2012年9月18日(火) 初回放送

語り:松田洋治

撮影時期:2012年5月

街の「タクシー」

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 旧市街、かつてワーグナーが音楽監督を務めたザクセン州立歌劇場の前で、ちょっと変わった観光タクシーを見つけました。車高は低くてコンパクトなのに、妙に長い…小さなリムジンといった趣です。オーナーでドライバーのラハマンさんに聞くと、旧東ドイツの「トラバント」という車を2台つなげて造った特別仕様だとか。トラバントは東ドイツの時代を通じてほとんどモデルチェンジされずに造られていた小型車で、基本は2気筒、排気量はわずか500~600cc。東ドイツでは唯一の国産大衆車なのに、生産体制が整っていなかったので、当時は「注文してから10年待ち」は普通だったそうです。この特別仕様の車のベースは「601」と呼ばれるモデルだそうですが、ラハマンさんは「“600人が注文しても買えるのは1人”って意味なんだ」と笑っていました。トラバントはもう生産されていませんが、最近では愛きょうあるスタイルから意外な人気となっていて「トラビ」の愛称で親しまれています。旧東ドイツ領だったドレスデンではもちろん、排ガス規制の厳しいベルリンでも、特別許可を申請してまで乗るファンが数万人もいるとか。
 生っ粋のドレスデンっ子であるラハマンさんのタクシーは、1時間25ユーロで貸し切りが可能。街の名所を解説付き(ドイツ語)で回ってくれます。また、ドレスデンの街並みを楽しみながら、ワインで乾杯…なんていう使い方もOK。たいていザクセン州立歌劇場(ゼンパーオーパー)の近くに止まっているそうです。

街の「古道具屋」

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 新市街の住宅地を歩いていると、巨大な古道具屋さんを発見。昔は石炭の倉庫だったという広々としたスペースに、あらゆる生活用品が並べられています。古いものでは19世紀の教会の椅子など、正真正銘のアンティークもありますが、一番人気はDDR(旧東ドイツ)の製品。食器、文房具、カメラ、ラジオ、家具…東ドイツ時代のものとなると、入荷したそばから売れていくそうです。店員のヘーバーさんですら「20年も前のせっけんや歯磨き粉まで買っていく人がいるんだよ…」と、最近の過熱ぶりには驚いている様子。番組で紹介したもの以外に彼がすすめてくれたのは、戸棚。シンプルというより武骨な黒い戸棚が200~300ユーロ。国民の平均給与が750マルクだった東ドイツ時代に3500マルクもした“高級品”だそうで、やはり昔を懐かしんで買いに来る人が多いとか。
 東ドイツ時代を懐かしむこうした感情は「Ostalgie/オスタルギー」と呼ばれています。これはドイツ語のOst「東」とNostalgie「郷愁」を組み合わせた造語です。東西ドイツ統一後、旧西側と旧東側との間でなかなか埋まらない経済格差。そんな現実を前に「東の時代もそう悪くはなかった」と、当時の文化全般を再評価しようとする人も少なくないのです。先に紹介したトラバントの人気も、そうした気持ちの表れかもしれませんね。

街の「遊び場」

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 夕方4時過ぎ、新市街の一角に子どもたちの元気な声が響いてきます。ここは「冒険公園」という遊び場で、非営利組織が運営しています。ドイツでは学童の放課後活動に公的な補助があり、どの街にも子どもたちが無償で安全に過ごせる場所が用意されているんです。ドレスデンには全部で7か所あり、さまざまなプログラムが用意されています。この冒険公園には馬に乗ったり廃材で家を建てたりというアクティブなものから、絵を描いたり料理を作ったりという文化的なものまでそろっていて、子どもたちは思い思いに楽しんでいました。指導スタッフがいるのは平日だけですが、週末にわざわざ動物に餌をやるためだけに来る子どももいて、ここがいかに大切な場所なのかがわかります。大人になってから再びここを訪れ、ボランティアとして子どもたちの指導に当たるOBやOGたちも、少なくないそうです。
 責任者のエルラーさんは言います。「たとえ学校では勉強ができなくても、ここではそれ以外の才能を見つけて伸ばしてあげたいの。それも遊びながらできたら最高じゃない?」

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