「生理」を察することができなかった僕にできること【#生理の話ってしにくい】

「一歩間違えば、セクハラと言われる。そういう恐怖があるから仕方ない」。僕は、心の中で、そんな言い訳を繰り返してきたのだと思う。「#生理の話ってしにくい」の記事を読みながら、見て見ぬふりすらもできていない、何も察していない自分を反すうしていた。

ディレクターになって10年目、取材でも、ロケでも、編集でも、女性とは何度もチームを組んできた。女性には月に一度、生理があることは知識として知っている。できることならしんどい部分はカバーしたいとも思ってきたし、ほんのちょっとでも体調が悪い様子を察知したら全力でできることを探そうと思ってきた。

でも、この10年、仕事を共にしてきた女性の中に、「生理のしんどさ」を感じさせた人は、誰一人としていなかった。たまたま一緒に仕事をしている期間、すべての女性が「生理」のタイミングではなかったのだろうか。職場の女性がみんな生理に強い体質だったのだろうか。もちろんそんなワケもなく、99%は僕自身が鈍感だったんだろうなと、反省は尽きない。ただ、1%くらい、どうしてもモヤモヤした気持ちが残ってしまう。

だって聞けないよ…
何から聞けばいいの…。どういう口調で…。不快に思われたら…

ライバルであり、仲間でもある、女性たちの背中を見ながら、心の中ではこんな言い訳が止まらなかったのが、この10年だったように思う。
自分が女性だったとしたら、「言われなくても察してよ」と言いたくなる。たぶん間違いなくそう思うだろう。でも、生理にまつわる困りごとは、どこまでが「労り」や「優しさ」でカバーしてほしい領分で、どこからが「触れないでほしい」領域なのかわからない。

「言ってくれたらもっとできることが、あったかもしれないのに…」

そんなことを、ぐちぐちと考えていたとき、先輩から、「生理の記事、書いてみない?」と、連絡をもらった。いい機会かもしれない。僕は、ぜひ書きたいと即レスした。何からはじめようかと考えたとき、苦楽を共にした先輩の顔が目に浮かんだ。
僕は、育休に入った彼女に、言い訳じみた前置きを重ねながら、「生理について話を聞かせてください」とLINEを送った。すると、すぐに返事が。

実際のやりとり

ふだんの取材よりもちょっとだけ緊張しながら、僕は、先輩に「生理」のことを聞き始めた。

生理のときは“長時間ロケ”と“エンドレス会議”が地獄だった

今回の記事に快く協力してくれたのは、Tディレクター。いろいろな番組を一緒に制作してきた「頼れるお姉ちゃん」のような存在だ。

女性にとって、「生理」のことを話すというのはハードルが高いと思う一方、男性が「生理」の話を教えてもらうことも、正直、“人を選ぶ”。もし“失言”をしたとしても許してもらいながら、ちゃんと、しかってもらえそうな「お姉ちゃん」に話を聞いた。

Q.これまで、番組を作るときに、「生理」でしんどいと思うときはありましたか?

T先輩:編集や台本作成とか、会社で作業しているときは大丈夫なんだけど、外のロケが大変。特に、すぐにお手洗いに行けない環境だったりすると、生理中だといつ生理用ナプキンを交換できるだろうか、経血が漏れて服を汚してしまわないかなど、ひやひやしながら撮影している感じだった。ロケ先のスケジュールも、場所も自分の体調で選べるわけじゃないし、合わせるしかないのが結構しんどいこと。

話を聞きながら、以前、福島の雪山での撮影中に、突然おなかを壊したときの絶望感を思い出していた。「自分ではコントロールができない急な体調の変化」と、ロケ先の環境の“すり合わせ”は時に困難を極める。ディレクターの仕事に限らず、あらゆる仕事で、お手洗いに長時間いけない環境はよくあるだろうと、想像した。僕にとっては人生に一度、あの雪山で感じた「絶望」と「ヒヤヒヤ」が、月に一度の頻度で、起きていると思うと、背筋が凍った。

T先輩:あとコロナの前とかだと、数十人が箱詰めで、身動きが取れない環境で3時間も4時間も番組の構成を議論することがあったけど、あれは地獄だった。生理のときは特に『話が長い上司』と『結論を出さない上司』は嫌いになる。お手洗いに席を立つことができないだけではなく、例えば生理痛が重いときには鎮痛剤が切れてくることもある。生理中だけではなく、生理の前の『PMS』も大変。『PMS』って、人それぞれいろんな症状があるし度合いも違うけど、私の場合は、眠くなったり、集中が途切れたりはよくあったし、イライラしやすくなるときもあった。上司と番組の編集方針が合わなくて、イライラが爆発して強い口調で言い返してしまったのも、今考えると、『PMS』だったのかなと思う。

当たり前のように出てきた、PMS…。恥ずかしながら、何のことか分からなかった。
みなさん、『PMS』って知ってますか?
PMSとは何かについては調べたものは後ほどお伝えするとして、その前に、『PMS』が分からないのは自分だけなのか、会社の中で聞き取りを行ってみた。
LINEやメールで聞くと、ネットで調べて、あたかも知っていたかのように返事をしてくる人がいそうなため、すれ違った先輩や同僚、その場に居合わせた上司など、
男性職員10人に「PMSって知ってますか?」と聞いてみた。

居室や廊下などで、たまたまお会いした方に聞きました

■たまたま隣に座っていた同僚は…
「知らんなー それみんな知ってるやつ?」

■鋭い取材で社会問題に切り込む尊敬する先輩は…
「何それ? 韓国グループの名前?」

■何度も助けてもらった頼れる上司は…
「最近、横文字で言うもの多すぎない?」

一応、男性だけではないかもしれないと思い、近くにいた女性の上司にも聞いてみた。すると、何を聞いてるんだというこれまで向けられたこともない、けげんな顔を浮かべられてしまったので、慌てて事情を説明。とたんに表情がやわらぎ、
「もちろん知ってる。むしろ、知らなかったの?」と、聞き返されてしまった。

取材として話を聞きに行く前、失礼にならないように、いい話が聞けるように、基礎的な知識や、資料を読み込んでいくのはディレクターの鉄則だと思っている。「生理」の話を聞く前に、自分でも調べられることは、きちんと調べて知ることから始めようと思った。

男性も知っておきたい生理のこと
その① PMS(=月経前症候群)とは? 症状は?

月経前、3~10日の間続く精神的、身体的症状で、月経がはじまると軽くなるか、なくなる。日本では、月経のある女性の約70%~80%が月経前に何らかの症状がある。
主な症状としては、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振、過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。

参考:日本産科婦人科学会

▶︎月経前症候群(PMS)|NHK健康チャンネル

超低用量ピルで“男性社会に適応していた”

「しんどい状況」を月に一度抱えながら、番組を作っていたことを知り、思ったことがある。相当なハンデを抱えているはずなのに、少なくとも僕には、しんどさを感じさせることがなかった女性たちは、どうやって“見せないようにしていたのだろうか”。

T先輩:「超低容用量ピル」を使ってたんだよね。出血量も減らせるし、生理に関する症状も減らせるから、仕事に支障が出る部分をコントロールできたのはすごく助かった。どうしても、徹夜ができたり、ぶっ通して編集をする男性陣を見て、かなわないと思ってしまうことがあって、少しでも、男性に負けない体にしたいと思っていたこともあった。

<産婦人科専門医・重見大介さんの解説>
男性も知っておきたい生理のこと
その② 超低用量ピルとは?

低用量ピルは、避妊を目的に用いるものと、生理前の症状を軽減させるために用いるものの主に二つの種類があります。そのうち、症状を軽減させるものは、女性が「生理に関連して症状が苦しい」と、医師に相談し月経困難症の診断がつくと、保険適用内で処方されるものです。T先輩が使っていたという「超低用量ピル」というのは、薬剤に使用されるホルモンの量を少なくすることで、より副作用が起きにくく、年間の月経を減らす連続服用が可能になったもののことです。国内外の研究でも、エビデンスが担保されてきたことで、最近、働く女性だけでなく、中高生も含め、多くの女性が「生理」とうまく付き合っていくために使用されるケースが増えています。喫煙者や持病など服用に注意が必要な方もいますので、処方の際には必ず医師によく相談してくださいね。

産婦人科専門医 産婦人科オンライン代表
重見大介さん

2010年日本医科大学卒業。これまで市中病院や大学病院などで産婦人科医として勤務。診療と並行して、医療に関する適切でわかりやすい情報発信を目指して活動している。子宮頸がんを予防する「HPVワクチン」について、より多くの医療機関や教育機関に適切な情報提供を目指す「みんパピ!」の運営に携わり、活動を行っている。

ほかにも、目に見えないところに女性特有の苦労は潜んでいた。男性は編集室からたばこ休憩やお手洗いに行くとき、ふらっと自分のペースで部屋を出て行く。

編集室でも女性特有の苦労が

しかし、女性の場合は、大きなバッグや袋を持って席を立つことに抵抗感があって、席を立てないことがあること。そのことで、服が汚れてしまう人もいることなど、知らないところで、番組作りどころではない事態が起きていることを恥ずかしながら、初めて知った。

年齢を重ねるにつれて「厚顔無恥」になってきたという先輩は、相手を選んでだが、今では「この1週間はしんどくなる」と事前に言うこともできるようになってきたという。しかし、若ければ若いほど、男性に負けたくない気持ちがあったり、相談しちゃいけないと心の中でどうしても思ってしまったりして、どうしてもしんどさは隠してしまうものになるのだという。
「生理のしんどさ」を察することができなくても…
「察せなくて、申し訳ない気持ちになりますね…」。

正直に思ったことを伝えると、さすが「お姉ちゃん」。一言も責めることなく答えてくれた。

T先輩:「察せ察せ」は無理があるよね。だって教育を受けてないんだから。そりゃあ、分かってくれて気遣ってほしいときはあるけど、じゃあ「生理ですか?」と聞かれたくはない。女性ばかりのチームで番組を作るときは、後輩が「今日2日目で…」と月経に伴う体調不良を気軽に伝えてくれてたけど、男性がいるととたんに話しづらくなってしまうんだよね。それぞれ、症状の頻度も、重さもバラバラだし、どこまで話していいかも分からない。女性同士でも、どこまで聞いていいか、分からないときもあるよ。でも、生理のことを、お互い話せなかったとしてもやれることはあるんじゃないかな。

T先輩から話を聞く前、僕は、生理のことについて話を聞くか、聞かないかという極端な選択肢にでしか解決策を考えていなかった。でも、「生理のしんどさ」を直接、聞かなくても、できることはあるのではないだろうかと、T先輩の話を聞きながら思うようになっていた。なぜなら、先輩が「生理のときにしんどい」と語っていた状況は、よくよく考えれば自分にとっても働きたくない環境なのだということに気づいたからだ。

たとえば、席を外せない雰囲気で、3時間も続く会議。集中は続かないし、眠くなってしまうし、いいアイデアは出てこなくなる。「休憩しましょうか」と誰かがひと言、口にすると「助かった」と思うだろう。

長時間の会議には「休憩」が大事

「生理のしんどさ」を我慢している人も、眠気を押し殺している人も、妻からのお怒りメールに早く返事を返したい人も、10分の休憩をはさんだあとは、それぞれの「困りごと」が好転して、再スタートができるかもしれない。

ほかにも、長時間電車で通勤するよりも、在宅勤務が増えるほうが、女性にとっても男性にとっても「困りごと」が減ることも多いだろう。仕事のスケジュールを組むときに「この1週間は少しセーブしたい」と、相談しやすい環境ができれば、僕の場合は妻が繁忙期のときに早く帰って子どもと一緒にいる時間を増やし、1週間を家庭も円満なまま乗り切ることができる。生理の女性が働きやすい環境のほとんどは、おそらく自分自身にとっても働きやすい環境なのだと知り、肩の力が抜けた気がした。

体調が悪そうなチームのメンバーがいたら、それが、女性であろうが、男性であろうが、「今日はみんなで早めに切り上げましょう」と声をかければいいのではないか。
生理じゃなくても、「セーブしたい1週間」は僕にもあるし、急におなかを壊したときに、場の空気を読んで、我慢をし続けることはしたくない。自分がしんどいときに、かけてほしい言葉を、女性であれ、男性であれ、チームの誰にでも伝えられるように、心がけてみたいと生理の話をたくさん聞かせてもらいながら、考えるようになった。

T先輩、お話を聞かせていただいてありがとうございました。

社会番組部ディレクター・藤松翔太郎

▶ ︎#生理の話ってしにくい

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