これまでの街歩き

サルデーニャ島 カリアリ/ イタリア

2010年5月2日(日) 初回放送

語り:松田洋治

撮影時期:2010年3月

街の「ワイン屋さん」

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お昼前、開店準備中のレストランのお兄さんに、ワインを量り売りするお店へ案内してもらいました。しばらく歩いてようやくたどり着いたのは、港近くの倉庫街。いささか殺風景とも言える場所にたつ、がらんとしたコンクリートの建物でした。
店構えも意外なら、その売り方はもっと意外。お客さんが持ってきた大きなペットボトルに、まるでガソリンスタンドの給油装置のようなものでワインを注ぎ込みます。そして、さらに驚かされるのはその値段。1リットルあたり0.85ユーロからあり、いちばん高くても1.2ユーロという手ごろさ!お客さんはひっきりなしにやって来ます。このお店はカリアリ近郊のモンセラートという町にあるワイナリーの直営店で、ブドウの栽培から醸造、販売まで一貫して行っているため、これだけ安く提供できるのだということでした。
お店の奥のスペースには巨大なステンレスのタンクがずらりと並んでいます。ワインは醸造所から直接タンクローリーでお店に運ばれ、それらのタンクに移し替えられるのだそうです。そのスケールの大きさを見れば、お店がこんな街はずれの広い場所を必要とするのもうなずけます。
サルデーニャの気候はブドウの栽培に適し、土着品種がたくさんあることで知られています。そこにはイタリア起源のものだけでなく、スペインやギリシア起源と思われる品種も含まれているそうです。こんなブドウの多彩さは、さまざまな異民族が次々とやって来たサルデーニャの歴史をそのまま反映しているのかもしれませんね。

街の「バレストラ」

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港近くの路地に置いてあった見慣れない弓のようなもの。それは中世ヨーロッパの戦争で使われた“バレストラ”という武器でした。聞けば今でもこの弓を使った競技が続いているとのこと。全国大会は毎年アッシジで開かれ、なんとカリアリは昨年準優勝に輝いたそうです。はたしてイタリア2位の実力とはどんなものか?カリアリチームの練習を見せていただくことに…。
練習場は街の真ん中にあります。矢が的に突き刺さる「ドスッ」という音が、住宅地に不気味に響き渡っていました。現在のバレストラの弦はポリエステル繊維を1.5cmの太さに束ねたもので、腕で引こうとしてもビクともしません。特製の巻き上げ機で引いた弦には1500kgもの力がかかり、強力なパワーで鋼鉄の先端部を持つ矢を弾き飛ばします。そのスピードは時速250km。金属製の甲冑(かっちゅう)ですら撃ち抜くその威力を目にしたローマ教皇が、「あまりにも残酷である」として使用を禁止したこともあるという、いわくつきの武器です。そんなバレストラの魅力とは?
チームのみなさんに聞いてみると…
1.自分たちがつくった武器(バレストラはメンバーの一人による手づくり)で、アッシジやノルチャといったほかの街の連中を負かすのが気持ちがいい。
2.矢を放つ瞬間忘れかけていた遠い昔の感情がよみがえってくるようで胸が騒ぐ。
…ということでした。
もちろん今は健全なスポーツとして親しまれているバレストラですが、しだいに熱を帯びてくるチームの人たちの横顔には、かつて侵略者と戦ったご先祖様の姿がだぶって見えるようです。これもやはりカリアリの「伝統」のひとつなのでしょう。

街の「中世レストラン」

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夜7時過ぎ。明かりも少ない静かな街を歩いていると、中世の衣装に身を包んだご夫婦に出会いました。彼らが連れて行ってくれたのは、看板もなく、鉄の扉をぴったりと閉ざした不思議なレストラン。中に入ると、やはり中世の格好をした人たちがたくさん集まりワインをくみ交わしていました。
この店の“シェフ”という男性によるとこれは「サルデーニャ人としての出自を忘れない」ように中世のサルデーニャの衣装を着て、中世のサルデーニャの料理を食べるという催し。数年前から家族や気の合う友だちとともに始め、月1、2回のペースで続けているのだそうです。普段はとある資産家の専属料理人として最先端の料理を作っている“シェフ”ですが、この日ばかりは昔のサルデーニャ料理の再現に全力を注ぎます。
メニューは「子山羊の胃袋で凝固したミルクをいぶしたもの」や「野生イノシシの生ハム」など、普通のレストランでは見かけないものばかり。彼が子供のころ、おばあさんが作ってくれた料理をベースに、さまざまな文献から得た知識を織り交ぜて再現しているということでした。
昔の料理を食べ、地元のワインを飲むうちに、しだいに座は盛り上がり、誰からともなく歌が始まり、合唱に。この日飛び出た「黒ワインの歌」は古くから伝わる現地語“サルド語”の歌。サルデーニャの人たちはもちろんイタリア語を話しますが、一方で今もサルド語が受け継がれているのです。
実はこのお店、まだ正式にはオープンしていません。完璧主義の“シェフ”は、もと中世の貴族屋敷だったこの建物を手に入れて以来、本業のかたわらコツコツ自分で改装を続けていて、いつ完成するかまだわからないのだとか。そんなわけで現在はまだ趣味の域にとどまっていますが、いつの日か家族みんなで本格的な「中世レストラン」を開くのが彼の最大の夢なのだそうです。

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