これまでの街歩き

シビウ/ ルーマニア

2011年11月3日(木) 初回放送

語り:八嶋智人

撮影時期:2011年9月

街の「屋根裏」

Photo

 街を歩くと、家々の屋根に不思議な形をした窓をたくさん見ることができます。人の「目」のような形をしたその窓。街の人によれば、どうやらこのトランシルバニア地方特有の形らしいのですが、なんだか不気味…。誰かに監視されている気分になってしまいます。
 大広場を囲む家々の1軒に、「5つ目」のついた屋根を発見しました。その正体を探ろうと訪ねてみると、女性が、中庭で花の手入れをしていました。「目」のことを尋ねると、「屋根裏にあった保存庫の通気口」だと教えてくれました。今はまったく使っておらず、ただの屋根裏なんだとか。一度その屋根裏を拝見したいとお願いすると、快く案内してくれることになりました。家の天井の片隅に屋根裏へと続く扉が…。ご主人が大きなはしごをかけて扉を開くと、小さな石がバラバラと落ちてくるではありませんか。「ずっと使ってないからね」とご夫婦は苦笑。屋根裏をのぞくと、奥の「目」の窓からかすかに光が差し込んで、梁(はり)がいっぱいの不思議な空間を浮かび上がらせました。
 さすがに監視している人はいないみたい…。ホッとしました。

街の「修理屋さん」

Photo

 朝9時半、街の中心部から少し離れると、通りに大きな靴の絵が描かれた看板を発見。お店の中をのぞいてみると、古い靴ばかりが並んでいます。靴の修理屋さんのようです。店内はお客さんでいっぱい。女性店主はお客さんに「いつまでも履き続けてくださいね」と言って、修理した靴を手渡します。なんだかすてきな言葉ですね。お客さんが次々とやってきて、お店の行列はなかなか途切れませんでした。
 街の中心部へ戻ってくると、人通りも多くなってきました。今度は、時計のポスターにつられて路地を曲がると、時計の修理屋さんがありました。このお店も繁盛している様子。お客さんがひっきりなしにやってきます。店主のおじさんはこの道37年というベテラン。毎時ちょうどの時刻になったら、サービスでハト時計をポッポッと鳴らせて見せてくれる、気さくな職人さんです。そんな人柄がお店の繁盛の理由なのかも。靴にしろ時計にしろ、シビウの人たちはみんな、お気に入りの物をキチンと修理しながら、長く大切に使い続けているんですね。
 シビウの街はそもそも、12世紀にドイツ系の移民たちによって造られました。その多くは職人で、業種ごとに数多くのギルド(同業者組合)を形成し、街に活気をもたらしたといいます。持ち物を大事にするのは、そんな職人の伝統が受け継がれているからなのかもしれません。

街の「風景画家」

Photo

 午後6時を過ぎたころ、街の入り口近くに戻って来ました。城壁沿いの建物の地下室で誰かが作業している様子が、窓越しに見えます。その男性に何をしているのか尋ねると、「イコン(神や聖人を描いた宗教画)を元気にしている」最中だとか。どういうことなんでしょうか?誘われて地下室を訪ねると、そこは男性のアトリエになっていました。ちょうど、教会から依頼を受けたイコンの修復中で丁寧に虫食いの穴を埋めていました。ふと、壁を見ると、街の屋根についた「街の目」の絵が飾られていました。「街の目」は、男性のお気に入りのモチーフなんだとか。
 不気味に感じる事はないのでしょうか?と尋ねるとこんな答えが返ってきました。
 「“目”は街の事を優しく見守り、それを大切に記憶してくれているように感じます」
男性の絵に描かれた「街の目」を見ていると、なんだか、温かい気持ちになりました。

※NHKサイトを離れます
ページトップ