いつも観てきた

吉本ばなな(小説家)

「きのう何みてた?」は、さまざまな書き手が多様な視点から番組をレビューするコーナーです。
小説家の吉本ばななさんは、かなりのテレビ通。特に深夜番組が大好きだそうです。
そして、意外(?)にも父親で哲学者の吉本隆明さんは、2時間ドラマファンだったとか…。
吉本ばななさんに「テレビのある風景」について書いていただきました。

私の父は、いつもテレビをていた。生きがいなんじゃないかと思うくらい。

DVDを観たりすることには全く興味がなかったみたいで、2時間ドラマが大好きだった。父を思い出すと、リビングの決まった椅子に座って2時間ドラマを観ていた姿がいちばんに浮かんでくるくらいだ。

「結局犯人は誰だったの?」と前半だけ観ていた私が聞くと、「わかんない、なんとなく眺めていただけだから」と答えが返ってきてぎゃふんとなったこともある。きっと執筆で疲れた頭を休めていたのだろうと思う。環境映像としての2時間ドラマだったのだ。

しかも私の実家にはすごい電気屋さんがついていてくれて、型落ちになったTVを格安で持ってきてつないでくれていた。だからTVが5台くらいあって、どの部屋でも観ることができるという、チャンネル争いのない家だった。

TVを観ながらどうでもいいコメントを発しあうのが唯一の家族の対話だったように思う。

「あれ、さんまさんのお嬢さんって誰だっけ」と私が姉に聞いたら、晩年少しボケかけていた母が、「IMALUだよ」と即答したことなど、忘れられない。

環境映像としてのテレビ

私はもちろんAmazonプライムやNetflixもよく観ているが、そしてCMというものをたいていの場合「多いな」「じゃまだな」と思っているが、父の血を引いたのかTV番組を環境映像と捉えているところがあって、CMは今現在旬な人のいちばんいい部分を切り取った瞬間を見ることができるのがいいと思うので、なくなればいいとは思っていない。

そして21時より前の番組には全く興味がなく、深夜番組が大好きだ。

「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)は、今はゴールデンの時間帯になったけれど、深夜の時期からずっと観てきた。カズレーザーとバカリズムと中丸くんの、家事についての知識がそこそこなのがちょうどよくて、面白い。今は食べものにかなり特化しているが、掃除や洗濯など他の家事についてもすごくためになった。

それから「ナスD大冒険TV」(テレビ朝日)。これは毎回真剣に観ている。主人公となる友寄ディレクターが、ほんとうは黒子に徹していたかったのにどうしてもその知識と行動力とアウトドア力を隠しておけなくて、とあるピンチのときについに世間が彼を見つけてしまった、その瞬間から私も彼にくぎづけになった。組織の中にいなくてはできないこと、いてはできないこと。そのバランスの中を精いっぱい泳ぎながら自由に近いところに生き、いろいろなことを教えてくれながら命懸けで冒険を切り抜けていくやらせのないすごい番組だ。

それとは別に、お風呂の中で再放送を観るのが好きなのは「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK)だ。日本中のどんなところでも家族は近所と連携しながら暮らしていて、似たような風景の中にもそれぞれの土地の良さや特色があって、最初どんなにはしゃいでいる人たちも照れている人たちも、鶴瓶さんの前でだんだん自然になっていく、その様子が大好き。ゲストがひとりで行動してその人間力を観ることができるのもいい。

先日、最初は観るともなしに観ていた「星とレモンの部屋」(NHK)というドラマがあった。引きこもりについてかなりシビアに描写してある内容だった。

創作テレビドラマ大賞をとったという。夏帆さんも宮沢氷魚さんも演技がとてもよくて、いつのまにか引きこまれてしまい、ちょっと泣いた。

こういういい番組をさりげなくいつもの日常に忍び込ませて、TVのすごみを感じさせる感じは、まさに古き良きNHKのようだなとしみじみ思った。ちょっとだけ異空間に連れていってくれる感じが。

★著者プロフィール

吉本ばなな(よしもと・ばなな)
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版されている。近著に『吹上奇譚 第三話 ざしきわらし』などがある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

★吉本ばななさんの「最近、何みてた?」

・「ゴッドタン」(テレビ東京)
とにかく下ネタとギリギリネタが最高!

・「お願い!ランキング」(テレビ朝日)
いつもそこにいてくれる、夜中の安心感。

・「超人女子戦士 ガリベンガーV」(テレビ朝日)
ほんとうに勉強になりすぎてびっくりする。

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