医学界の腐敗を描いたベストセラー小説、田宮二郎主演の初映画化作品

白い巨塔【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

5月20日(月)[BS]午後1:00〜3:31

今回ご紹介するのは社会派映画の名作です。

大阪の浪速大学医学部では、定年を控えた東教授の座をめぐる権力争いが水面下で行われていました。最有力候補は助教授・財前五郎ですが、財前を嫌う東は別の大学から優秀な医者を招き入れようと画策、病院内はさまざまな思惑が交錯していきます…。

原作は山崎豊子のベストセラー小説。およそ60年前、1963年から65年まで週刊誌に連載され大きな反響を呼びました。医学界の権力争いというテーマ、スリリングな物語は今も古びることなく、何度も映像化されていますが、今回放送するのは最初の映画化作品。公開されると大ヒットし、数々の映画賞を受賞するなど高く評価されました。

何といっても見どころは、日本映画史を飾る名優たちの圧巻の演技と存在感。主人公、財前五郎を演じるのは田宮二郎。当時30代前半、外科医としては優秀ですが、出世のために冷酷にもなる野心家のエリートを演じ切っています。勝 新太郎と共演した「悪名」シリーズではコミカルな演技をみせ、クイズ番組の司会者としても広く知られた田宮ですが、本作は代表作となり、12年後のテレビドラマでも財前を演じました。
財前の同期で、権力には関心のない内科医の里見を演じるのは田村高廣。研究に専念したいという生真面目な医師はピッタリです。さらに第一外科教授の東を演じる東野英治郎、医学部長の鵜飼を演じる小沢栄太郎をはじめ、加藤 嘉、滝沢 修、石山健二郎、船越英二。女性では、財前の愛人を演じる小川眞由美(旧芸名:小川真由美)や、藤村志保、岸 輝子と、名優たちの白熱の演技は、まさに映画ならではのだいご味をたっぷり味わわせてくれます。

脚本を執筆した橋本 忍は、黒澤 明監督の「生きる」(1952)「七人の侍」(1954)、小林正樹監督の「切腹」(1962)、野村芳太郎監督の「砂の器」(1974)など、数々の名作で知られる名脚本家です。長大な原作を見事にアレンジした橋本の脚本を基に、演出を手がけたのは山本薩夫監督です。山本は1930年代に映画会社に入社し監督となりますが、戦後の労働争議で解雇され、独立プロを設立。自分たちで製作資金を調達し、社会問題を鋭く提起する作品を次々発表します。また、市川雷蔵主演の時代劇「忍びの者」(1962)を大ヒットさせるなど、娯楽作品の監督としても高い能力を発揮しました。本作も医学界の腐敗を息もつかせぬ展開で描き、第一級のエンターテインメントに仕上げています。
見ごたえたっぷり、昭和を代表する名作をご堪能ください。

※山本薩夫監督の「薩」の字は、右側の上は「立」ではなく「文」になります。ご使用の端末環境によって正しく表示できない場合があります。

プレミアムシネマ「白い巨塔」

5月20日(月)[BS]午後1:00〜3:31


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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