ピュリツァー賞受賞のベストセラー小説を映画化

ケイン号の叛乱【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

4月25日(木)[BS]午後1:00〜3:06

今回ご紹介するのは緊迫の戦争ドラマです。

第二次大戦下、アメリカ海軍の駆逐艦ケイン号に新艦長クイーグ少佐が着任します。クイーグは細かいことに厳しい神経質な性格で、乗組員たちは次第に信頼をなくしていきます。ある日、ケイン号は台風に遭遇、クイーグが取り乱して的確な命令が下せなくなったと判断した副長のマリック大尉はクイーグに代わって指揮を執り、危機を切り抜けます。しかし、マリックと、マリックに協力したキース少尉は反乱を起こしたとして軍法会議にかけられます。裁判の行方は…。

ピュリツァー賞受賞のベストセラー小説を映画化した本作は大ヒットとなり、高く評価されました。無能な上官と部下、危機管理、責任の所在といったテーマは、公開から70年が経った今でも、社会生活のさまざまな場面をほうふつとさせ、まったく色あせていません。

見どころはハリウッドを代表するキャストとスタッフ。クイーグを演じるハンフリー・ボガートは「カサブランカ」(1942)の酒場の主人リックや「三つ数えろ」(1946)の名探偵フィリップ・マーロウなど、誰もが憧れるような男性を演じ“ボギー”の愛称で親しまれました。そんな大スターが、いざというときには役に立たない小心者の艦長を迫真の演技で表現しています。ボギーだからこそ、クイーグが単なる悪役ではなく、複雑で多面的な人間であることが感じられるのだと思います。ホセ・ファーラー、ヴァン・ジョンソン、フレッド・マクマレイをはじめ共演者も名優ばかりです。

エドワード・ドミトリク監督の重厚な演出も魅力的です。1930年代に監督となったドミトリクは、人種差別がテーマの「十字砲火」(1947)がアカデミー作品賞にノミネートされ、一躍注目されます。しかし、かつて共産党員だったことから、ドミトリクは40年代から50年代にかけての“赤狩り”で非米活動委員会に召喚されましたが、証言を拒否。映画会社を解雇され、議会侮辱罪で服役します。
出所後、かつての仲間たちの名前を証言し、映画界に復帰。自らの信念をひるがえし、裏切り者というレッテルを貼られても、ドミトリクは映画を作り続けるために苦渋の決断をしました。その苦悩と絶望は想像を絶するものだったと思います。ドミトリクは本作の後も、戦争映画「若き獅子たち」(1958)や社会派西部劇「ワーロック」(1959)など、“正義”を鋭く問う作品を手がけ、1999年、90歳で亡くなりました。

アメリカ映画史上に輝く名作。じっくりご覧ください。

プレミアムシネマ「ケイン号の叛乱」

4月25日(木)[BS]午後1:00〜3:06


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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