パリの街で大騒動!遊び心満載コメディー

地下鉄のザジ【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

11月16日(木)[BSプレミアム]午後1:00〜2:33

今回ご紹介するのはフランス映画。ユニークな演出で風刺に富んだ傑作コメディーです。

オレンジのセーターにショートカットの少女ザジは、母に連れられて叔父さんの暮らすパリにやってきます。何よりも楽しみにしていたのは地下鉄に乗ることでしたが、残念ながらストライキの真っ最中。しかたなくザジはパリの街を見物に出かけますが、行く先々で大騒動が…。ナンセンスでシュールなギャグの連続、フィルムスピードを変えて登場人物を早く動かしたり、アニメが挿入されたりとスタッフ・キャストの遊び心も満載です。

ザジを演じるのはカトリーヌ・ドモンジョ。公開当時10歳、笑顔が何ともチャーミングです。ジャン・リュック・ゴダール監督のミュージカル・コメディー「女は女である」(1961)でも同じザジ役でチラッと顔を見せ、その後は数本の映画やドラマに出演しました。しかし、本格的な映画出演は本作のみで、大人になってからは教師になったということです。
叔父さんのガブリエルを演じるのはフィリップ・ノワレ。フランスを代表する名優として国際的に活躍、「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989)での心優しい映写技師アルフレードの名演で知られています。本作公開時はまだ30歳、とぼけた味わいがたまりません。

実験的・前衛的な作風で知られる作家レイモン・クノーの代表作ともいえる小説を映画化したのが、ルイ・マル監督。斬新な映像表現と演出で映画界に新風を吹きこみ、世界中の映画作家に影響を与えた“ヌーベルバーグ”の映画作家の一人として知られる名監督です。

1932年、裕福な家庭に生まれたマル監督は23歳の若さで、海洋学者ジャック・イヴ・クストーとドキュメンタリー映画「沈黙の世界」(1956)を共同監督。カンヌ映画祭最高賞のパルム・ドールとアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞します。
25歳のとき、長編劇映画第1作の「死刑台のエレベーター」(1957)を製作。天才ジャズトランぺッター、マイルス・デイビスの音楽に彩られた傑作犯罪サスペンスは絶賛され、第2作「恋人たち」(1958)では、不倫をテーマにした大胆な描写が物議を醸しました。
そして3作目が本作。それまでとは全く違った作品の雰囲気に観客も批評家も戸惑ったのではないかと思います。しかし本作でもドライでエスプリを効かせたマル監督の演出は健在、60年以上前の作品とは思えない輝きを今も放っています。

何度も見たくなってしまう不思議な魅力の作品。どうぞお楽しみください!

プレミアムシネマ「地下鉄のザジ」

11月16日(木)[BSプレミアム]午後1:00〜2:33


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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