小津安二郎監督の代表作をデジタル・リマスターで!

東京物語 デジタル・リマスター版【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

12月12日(火)[BS]午後1:00〜3:19

映画監督・小津安二郎──。国際的にも高く評価され、日本映画の巨匠として世界中の映画作家に影響を与え続けています。1903年12月12日生まれ、1963年、還暦の誕生日にこの世を去った小津監督は、今年生誕120年・没後60年。誕生日であり命日に放送するのは、代表作ともいえる世界映画史上に名を刻む傑作中の傑作です。

広島・尾道で暮らす老夫婦が、成人した子どもたちに会いたいとはるばる東京へやって来ます。しかし息子や娘は日々の暮らしに忙しく両親をやっかい者扱いしてしまいます。そんななか、戦死した次男の妻だけは2人に温かく接するのでした…。

“日本的”ともいわれる小津監督ですが、実はアメリカ映画を熱心に研究しており、本作はレオ・マッケリー監督の「明日は来らず」(1937)を参考に構想したとされています。

構図やセリフ、すべてが独創的な美学に貫かれた小津作品、その演出に応えたのが映画・演劇界を代表する俳優たちです。主役の老夫婦、夫・平山周吉を演じるのは笠 智衆。小津作品を代表する名優です。端役中心の大部屋俳優からスタートし、撮影当時は小津監督の一つ年下の49歳でしたが、背中を丸め、かみしめるようにゆっくりと語り、老いや孤独を絶妙に表現しています。
妻・とみを演じるのは東山千栄子。1890年生まれ、大正時代に築地小劇場に入団した東山は、チェーホフの「桜の園」をはじめ、数々の舞台で活躍した生っ粋の演劇人。その優しい笑顔は、“田舎のお母さん”そのもののようです。
笠と東山のキャリアはまったく違いますが、長年連れ添った夫婦にしか見えないのは、小津監督ならではの魔法のよう。浴衣姿で熱海の岸壁に座る2人のショットは忘れられません。

平山夫婦を温かく迎える、次男の妻・紀子を演じるのが原節子。15歳で映画デビューし、大スターとして活躍してきました。本作での、聡明そうめいにふるまいながらも、どこかさみしさを感じさせるたたずまいは絶品です。小津作品には6本に出演、とりわけ「晩春」(1949)「麦秋」(1951)本作と、同じ役名で演じたことから、「紀子三部作」ともいわれています。
さらに杉村春子、中村伸郎、東野英治郎、長岡輝子といった演劇人、映画界からは山村聰、三宅邦子、香川京子…。ため息の出るような名優たちの演技は何度見ても新たな発見があります。

翌週19日(火)はナンセンス・コメディーの傑作「お早よう デジタル修復版」(1959)、26日(火)は遺作となった「秋刀魚の味 デジタル修復版」(1962)も放送します。世界中を感動で包む小津安二郎作品。ぜひご覧ください。

プレミアムシネマ「東京物語 デジタル・リマスター版」

12月12日(火)[BS]午後1:00〜3:19

プレミアムシネマ「お早よう デジタル修復版」

12月19日(火)[BS]午後1:00〜2:36

プレミアムシネマ「秋刀魚の味 デジタル修復版」

12月26日(火)[BS]午後1:00〜2:55

そのほかの映画情報はこちら

<関連番組>

美の壺「和の美の理想郷、小津映画」

12月12日(火)[BS]午後3:19~3:50

世界中で高い人気を誇る映画監督・小津安二郎。「東京物語」「秋刀魚の味」などの代表作を題材に、日常を輝きに変える小津の魔法に迫る!

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坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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