2人の恋は許されないものだった…

エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事【坂本朋彦のシネフィル・コラム】

3月7日(木)[BS]午後1:00〜3:19

19世紀、ニューヨークの社交界。弁護士のニューランドは、良家の令嬢メイと婚約し、将来を嘱望されていました。そんなある日、幼なじみで、夫と別居しヨーロッパから戻ってきたメイのいとこ、エレンが現れます。次第にエレンに心をひかれていくニューランド。しかし、体面や格式を重んじる社交界では、その恋は決して許されないものでした。果たして2人は…。今回ご紹介するのは文芸ドラマの傑作です。

ニューランドを演じるのはイギリスの名優ダニエル・デイ・ルイス。演じる人物に全身全霊で役作りに没頭することで知られ、本作でも入魂の演技をみせています。エレンを演じるミシェル・ファイファーのはかなくも切ない表情、あどけなさと大人の冷静さを兼ね備えたメイを端正に演じるウィノナ・ライダー、喜劇王チャップリンの娘ジェラルディン、イギリスの名作ホラーに出演したマイケル・ガフ、名優たちの存在感と演技が光ります。

監督のマーティン・スコセッシは半世紀以上にわたって傑作を発表してきた巨匠です。世界中の映画に精通し、映画の保存や修復にも尽力するなど、80歳を過ぎた今も精力的に活動し、先月のベルリン国際映画祭で金熊名誉賞を受賞しました。今月発表のアカデミー賞で作品賞はじめ10部門にノミネートされた最新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(2023)や、ギャングを描いた「グッドフェローズ」(1990)、「ディパーテッド」(2006)など、スコセッシ監督といえば迫真のバイオレンス演出が印象的ですが、最も暴力的なのは本作だと語っています。もちろん直接の暴力はありませんが、華やかな社交界にうごめく駆け引きや権力闘争はギャングの世界と同じ。直接ではないだけに、より辛辣しんらつで寒々しく感じられます。

原作は、女性で初めてピュリツァー賞を受賞した、作家イーディス・ウォートンの小説。スコセッシ監督は、ウォートンと交流のあったヘンリー・ジェームズの「ワシントン・スクエア」を映画化した、ウィリアム・ワイラー監督の名作「女相続人」(1949)を参考にしたということです。

名撮影監督ミヒャエル・バルハウスの流麗なカメラワークと鮮やかな色彩の照明、綿密なリサーチをもとにしたダンテ・フェレッティの美術、アカデミー賞を受賞したガブリエラ・ペスクッチの衣装が、映画ならではのゴージャスな映像美を作りあげています。
さらに、劇中で流れるクラシックの名曲の数々。大ベテランの映画音楽家・エルマー・バーンスタインの甘美な旋律がたまりません。

格調高い大人のドラマをご堪能ください。

プレミアムシネマ「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」

3月7日(木)[BS]午後1:00〜3:19


坂本朋彦

【コラム執筆者】坂本朋彦(さかもと・ともひこ)

1990年アナウンサーとしてNHK入局。キャスターやニュースなどさまざまな番組を担当。2014年6月からプレミアムシネマの担当プロデューサーに。

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